アブ
危険生物(虫)
アブは、夏の日中に襲ってくる大型の虫。
見分け方
体長10〜30mmと大きく、羽音も低く重い虫です。夏の日中、水辺や牧場の近くに多く、黒っぽい車や服、汗のにおいに寄ってくる性質があります。窓を開けた車内にも入り込みます。白い馬と暗い毛色の馬を野外で比べた研究では白いほうがアブに寄られにくく、著者らは毛が反射する偏光を宿主探しの手がかりにしていると説明しています。クロアチアの森では、色違いの箱型トラップのうち黒が全体の20%、黄色は1%を捕らえました。
危険・注意
口で皮膚を切り裂いて吸血するため噛まれた瞬間に鋭い痛みと出血があり、ブユ(ブヨ)と同じようにあとから大きく腫れます。何匹も執拗にまとわりつくので、落ち着いて食事もできません。ボリビアでアブに噛まれた旅行者7人の症例報告では、首や肩に噛み口を中心とした平たい赤い斑が出て痛み、ステロイドの外用薬で速やかに回復しました。まれですが、アブでもアナフィラキシーが確かめられていると総説は述べています。
出会ったら
叩き落とそうとするよりその場を離れて車やテントに一度入るほうが早く収まります。噛まれたら洗って冷やし、かゆみ止めを塗ります。明るい色の服と、ディートやイカリジンの虫よけが予防になります。アブに噛まれたとみられて太ももが大きく腫れた30代女性が抗菌薬と抗ヒスタミン薬で回復した症例報告もあり、腫れが広がるときは受診してください。
出典
- 論文・英語 Horváth G ほか(Proceedings of the Royal Society B)(2010) An unexpected advantage of whiteness in horses: the most horsefly-proof horse has a depolarizing white coat
- 論文・英語 Krčmar S ほか(Parasite)(2014) Efficiency of colored modified box traps for sampling of tabanids
- 論文・英語 Veraldi S, Esposito L(Journal of Travel Medicine)(2017) Skin lesions caused by Tabanus bovinus bites
- 論文・英語 Hemmer W, Wantke F(Allergologie Select)(2020) Insect hypersensitivity beyond bee and wasp venom allergy
- 論文・英語 Kelly K, Grose P(BMJ Case Reports)(2023) Horsefly (genus Tabanus) bite: allergy or infection?
解説動画: 登山の虫よけ対策と、刺された後の手当/山旅旅
概要:アブに狙われる理由: 登山で人に害を及ぼす代表的な虫としてカ・マダニ・ハチ・アブを挙げ、そのうちアブは刺されると集中力がなくなるほどの痒みと痛みが出るとしている。アブは人から出る二酸化炭素や体温に反応して寄ってくるため、汗をかき、息が荒くなって二酸化炭素を多く吐いている登山中の体は狙われやすい。道具をそろえる前になぜ自分に寄ってくるのかという原因側から考え直すことを勧めている。
服装での防御と、その限界: 肌の露出が少ない長袖・長ズボンが最も基本的な対策だが、生地が薄いとウェアの上からでも刺されるので万全ではない。虫が活発になる朝夕は肌を覆い、日中の暑い時間は半袖にして虫よけスプレーを使う、という使い分けをしている。また威嚇してくる虫は動物の急所である頭や目の黒さを本能的に狙うという説を紹介し、黒や深緑を避けて明るい色のウェアを選ぶのも一案としている。
ディート・イカリジンは「虫よけ」ではない: ディートやイカリジンは虫を寄せつけない薬ではなく、皮膚に着地した吸血虫を錯乱させて血を吸う場所を分からなくさせるものだと説明している。つまり虫は近寄ってくるが刺されない、という働きになる。製品の表示にはブユ・アブ・マダニ・カなどへの効果が書かれている。効き目を強めたい山では成分量の多いものを選ぶとよく、2016年に厚生労働省が認可した上限はディートが30%、イカリジンが15%である。
ハッカ油・シトロネラの自作スプレー: ハッカ油やシトロネラオイルはディートなどと違い、虫が嫌う匂いで近づかせないタイプである。ハッカは薄めて肌にかけるとひんやりして発汗を抑える効果も期待できるが、濃すぎると肌が荒れて炎症を起こすため痛くならない程度にとどめる。作り方は無水エタノールに精製水を加え、ハッカ油を5滴ほど、シトロネラオイルを6〜7滴ほど落とすというもの。2本持つのが面倒なので、精製水の代わりにイカリジンを入れて両方の役割を1本にまとめていると紹介している。
刺された後のケアまでを装備に数える: 刺された跡を放置すると痒みでかきむしり、そこから症状をさらに悪化させてしまうため、痒みと痛みを抑える薬も山へ持つべきだとしている。市販のステロイド軟膏や化膿止めの軟膏、ロキソニンなどの鎮痛剤やテープ剤をファーストエイドキットに入れておくと便利である。虫よけだけで完結させず、刺された後に手当てできる装備までを一組として考える姿勢を勧めている。