牛乳を注ぐ女

バロック・古典

ヨハネス・フェルメール/1658〜60年ごろ

どんな絵か

台所で女が壺から牛乳を注いでいる、それだけの絵。縦45.5cm・横41cmと小さいのに人物は画面いっぱいに大きく、腕やパンの質感がすぐ目に入る。壁は塗り残しのように白く、釘穴と染みしかない。物語ではなく一つの動作が止まった瞬間を見せている。

どこを見るか

左の窓から入る窓の光がすべてを決めている。光は女の額から腕へ落ち、注がれる牛乳の細い筋で目が止まる。青いエプロンと黄色い上着は補色に近い組み合わせで、白い壁の中で重さを持つ。壁の余白が広いほど手元が効くという作りになっている。

使われている技法

カンヴァスに油彩。パンの皮や籠には粒のようなハイライトが点々と置かれ、離れると光のきらめきに変わる。青いエプロンには当時いちばん高価だったラピスラズリ由来の顔料が使われた。調査では壁の地図と足元の洗濯籠を塗りつぶした跡が見つかっている。

描かれた背景

17世紀のオランダでは、聖書や神話ではなく身近な暮らしを描く風俗画がよく売れた。台所女中は当時の絵や文学で色っぽい役どころに使われることも多く、右下の床のキューピッドのタイルと足温器に同じ含みを読む説と、働く手つきの静けさを見る説とに分かれる。1908年にシックス家の収集品からアムステルダム国立美術館へ入った。

解説動画: 冬の朝の台所を、道徳画と読むか色恋と読むか/こやぎ先生の美術ちゃんねる

どういう絵として見ているか: 17世紀半ばのオランダの画家ヨハネス・フェルメールの作で、若い使用人が壺から容器に牛乳を移しているだけの場面だと紹介する。細く注ぐ動きがゆっくりした時間を感じさせ、テーブルには硬そうなパンがちぎって置かれている。前掛けの青は当時金と同じほどの価値があったラピスラズリの粉で、フェルメールブルーと呼ばれると述べている。

季節と時間の読み取り方: 右下に置かれた足温器は炭で火を焚いて足元を温める器具で、ここから季節は冬、光の差す角度から時間は朝と読めると説明する。作っているのはパンで作るプリンで、壺にはすでにパンとカスタードが入っており、ダマにならないよう慎重に注いでいるところだという。背景は石灰の打ちっ放しで、釘を刺した跡や剥がれ、吊るされた籠、少し割れた窓まで描き込まれていると指摘する。

道徳画として読む説: 当時は注文を受けて描くのが基本で、働く使用人を描いてくれという依頼は考えにくいことから、この絵には宗教的な意味があると言われていると説明する。宗教改革でオランダはプロテスタント側になり、清く正しく質素にという考えを絵にするなら、正しく生きることの美しさを描くことになる。硬くなったパンも牛乳を注げば食事に生まれ変わる、贅沢だけが全てではないという教えだとする。

性的な含みを読む説: もう一つ、足温器は女性がスカートの下に入れて使うものだとして、使用人と依頼主である家の主人との関係を示すのではないかという説も紹介する。足元のタイルに遊ぶ二人のキューピッドが描かれている点も、愛欲の神エロスにあたるとして根拠に挙げる。解説者自身は考えすぎではないかと留保しつつ、想像をかき立てるのも名画の宿命だとまとめている。