アルカディアの牧人たち
バロック・古典
ニコラ・プッサン/1638年ごろ
どんな絵か
理想郷アルカディアの牧人三人と女性が、石の墓を囲んで刻まれた文字を読んでいる。縦85cm・横121cmの横長のカンヴァスで、ルーヴル美術館にある。事件は何も起きず、文字を読む姿勢だけで場面が成り立っている静かな絵。
どこを見るか
人物が墓石の前に横一列に並び、体の向きと腕が穏やかな三角構図を作る。しゃがんだ男の指と、石に落ちる彼の影が同じ場所を指し、見る側の目も刻まれた文字へ落ちる。色は青い空・白い衣・赤い衣に絞られ、遠くの山は空気遠近法で青くかすむ。
使われている技法
カンヴァスに油彩。人物は古代彫刻を思わせる姿勢で固定され、輪郭は硬く、絵の具の跡がほとんど見えないほど平らに整えられている。色数を絞り、明るさの段も減らす作りで、コントラストが強くないぶん画面が静かに落ち着く。
描かれた背景
墓に刻まれた「ET IN ARCADIA EGO」は「アルカディアにも私(死)はいる」とも「私もかつてアルカディアにいた」とも訳せ、どちらを取るかで絵の意味が変わる。同じ主題をプッサンは1627年ごろにも描いており、チャッツワースにあるその版は墓を見つけて驚く牧人という劇的な場面になっている。
解説動画: 理想郷にも死はある、墓の文字が示すもの/日めくり3分間名画の旅
どういう画家の絵として紹介しているか: 描いたニコラ・プッサンは、次の世代の規範とされた歴史画の巨匠で、フランス古典主義を確立した画家だと説明する。生涯のほとんどをローマで過ごし、宰相リシュリューに愛されて一度フランスへ呼び戻され首席宮廷画家になった。同じ17世紀のルーベンスやベラスケス、レンブラントの影に隠れた形だったが、後にラ・トゥールらとともに再評価されたという。
何が描かれているか: 古代ギリシャの理想郷アルカディアで、墓を囲む四人の牧人が描かれていると説明する。墓には髑髏のようなものがあり、髑髏は死を意味する。その下に刻まれた文字は「我アルカディアにもあり」と読めるとして、理想郷にも死はあるのだと伝えているという読み方を示している。
どこにうまさが出ているか: 中世の末から言われるようになったメメント・モリ、死を忘れるなという伝統的な主題を示した図だと位置づける。そのうえで、牧人それぞれの顔が個性的に描き分けられていることと衣服の描写を挙げ、こうしたところにプッサンのうまさが出ていると述べ、代表作であり歴史画の名画だとまとめている。