キリスト降架

バロック・古典

ピーテル・パウル・ルーベンス/1612〜14年

どんな絵か

十字架から降ろされるキリストの体を、まわりの人々が白い布ごと受け止めている場面。三枚組の祭壇画の中央にあたり、板に描かれ、中央だけで高さ4mを超える。アントウェルペンの聖母大聖堂に今も設置され、見上げる位置から体が降りてくる。

どこを見るか

白い布とキリストの体が作る一本の斜め線が背骨で、左上から右下へ目が滑る対角線構図になっている。周りの人物は皆この線に手を添える形で並び、視線もそこへ集まる。いちばん明るいのはキリストの肌と白い布、その左右を赤い服の人物が締めている。

使われている技法

樫の板に油彩。同じ大聖堂にある《キリスト昇架》の激しい動きに対し、こちらは静かな均整でまとまると評されることが多い。肌は薄い層を重ねるグレーズで透明感を出し、布は厚めの絵の具で質感を分ける。大画面は下絵を作って工房と分担で仕上げるのが常だった。

描かれた背景

アントウェルペン大聖堂の火縄銃手組合が1611年に注文した祭壇画。組合の守護聖人クリストフォロスの名は「キリストを担う者」を意味し、左翼は身重のマリアがエリサベトを訪ねる場面、右翼はシメオンが幼子を抱く場面で、キリストを担う主題が三枚を通して繰り返される。

解説動画: 大聖堂の三点をつなぐ光と、フランダースの犬の結末/山田五郎 オトナの教養講座

どこに、どう並んでいる絵か: アントウェルペンの聖母大聖堂にあり、向かいの《キリスト昇架》、中央の《聖母被昇天》と三点が並ぶと案内する。昇架が1610年、この絵は1611年から14年まで三年かけて描かれた。二点はナポレオンがフランスへ持ち去っており、返却されたときには昇架のもとの教会が焼けていたため、この絵の向かいに置かれることになったという。

昇架との違いと、光というテーマ: イタリア帰りのルーベンスはカラヴァッジョの《キリストの埋葬》を模写するほど気に入り、人に抱かれるキリストを描きたいと思っていたと説明する。動きの激しい昇架に対し、こちらは構図が整理され落ち着いているとし、体に重さがかかっている表現がよく分かるという。暗闇と赤や青の衣の中でキリストの体と白い布だけが光って見え、世を照らす光が隠れた主題だとする。

三枚を貫く主題: 聖母大聖堂のための絵なのでマリアの生涯も主題になっていて、左翼はマリアが親戚エリサベトを訪ねる場面、右翼は神殿への奉献で老人シメオンが幼子を抱く場面だと説明する。左翼の足元の鶏は夜明けを告げる光、孔雀は肉が腐らないという伝説から不滅の象徴だという。扉を閉じるとキリストを背負う聖クリストフォロスと、ランタンを持つ隠者が現れる。

フランダースの犬とこの絵: 物語でネロが見たがる絵で、以前は布が掛かっていて金を払うと開けてもらえたと自身の訪問を振り返る。1980年ごろから日本人観光客が理由を尋ねるようになり、大聖堂の側が物語を調べて日本語の説明を置いたという。天国に行けそうな被昇天ではなくこの絵の前で息絶えるのは、キリストが流した血で原罪が贖われたことを示す絵だからではないか、という見方を示している。