ラス・メニーナス

バロック・古典

ディエゴ・ベラスケス/1656年

どんな絵か

王宮の一室に、幼い王女マルガリータと侍女たち、小人、犬、そして絵筆を持ったベラスケス自身がいる。縦318cm・横276cmと実物大に近く、部屋がそのまま奥へ続いて見える。画家がこちらを見ているので、見る側が描かれる側に立つような位置関係になる。

どこを見るか

最も明るいのは手前の王女の白いドレス。そこから奥へ光が弱まり、いちばん奥の戸口で人影がまた明るく浮かぶ。天井の鉤と床の線が奥へ集まる一点透視なので、手前・鏡・戸口の三つの明かりをこの順に追うと部屋の深さが体で分かる。壁の鏡に小さく映るのは国王夫妻とされる。

使われている技法

カンヴァスに油彩。近づくと衣装のレースも髪もただの絵の具の跡にしか見えず、離れた途端に形にまとまる。細部を描き込まずにコントラストと筆の勢いで質感を代弁させるやり方で、ゴヤやサージェントがこの絵を模写し、後の印象派にもつながったとされる。

描かれた背景

スペイン王フェリペ4世の宮廷画家を務めたベラスケスが、王宮の自室で描いた。胸に付くサンティアゴ騎士団の赤い十字は1659年に授けられたもので、絵の完成より後に描き足されている。奥の鏡が国王夫妻本人を映すのか、画家が描いている絵を映すのかは今も割れている。

解説動画: 画家が描いているのは誰かと、奥行きを作る仕掛け/山田五郎 オトナの教養講座

画家が何を描いているのか: 絵の中のベラスケスが向かう大きなキャンバスに何が描かれているのか、という問いから始まる。答えは奥の壁の鏡に小さく映る国王フェリペ4世と王妃マリアナで、国王夫妻は絵の手前に立っていることになると説明する。鏡が手前の夫妻を映すという説と、描きかけの絵が映るという説を並べ、それにしては縦318cmのキャンバスは大きすぎるという指摘も紹介する。

集団肖像画としての珍しさ: 題名はスペイン語で侍女たちの意味で、中央の王女マルガリータの周りに侍女、宮廷に必ずいた小人症の道化、行儀作法を教える目付け役が二人ずつ並び、奥の戸口には王妃付きの侍従長がいると説明する。高貴な人物の肖像は単独で描くのが基本の時代に、国王夫妻から付き人まで一枚に収め、日常のスナップのような場面として切り取った点が極めて珍しいという。

タッチと明暗のどこを見るか: 衣装は近づくとさっと置いた筆跡にしか見えないのに、引くとサテンの質感になると拡大して示し、この正確なタッチにマネが参ったのだと述べる。明暗では、右の窓から入る光に顔を向けているのは王女だけなので一番目立つこと、奥をいったん暗くして戸口にもう一度明るい光を置くことを挙げる。イタリア滞在で学んだカラヴァッジョ以来の明暗法だが、激しさはなく静かだとする。

奥行きを作る仕掛け: 鏡の国王夫妻まで入れて十一人を全員画面の下半分に集め、上半分を空間として残していると指摘する。上下が割れて見えないのは、大きなキャンバスと戸口の光が両端で上下をつないでいるからだという。人物はジグザグに、間隔を狭めながら奥へ並ぶ。距離ごとにぼかしを何段も変えており、手前の犬が最もくっきり、鏡の中が最もぼける。見る側は夫妻の位置に立ち、王女がほぼ実寸に見えるとまとめる。