総アンモニア態窒素(TAN)
魚に効く数字
効く相手: 魚
試薬が示すのは、毒の量ではありません。TAN は NH₄⁺ と NH₃ を足した値で、そのうち何割が魚に効くかは pH と水温が決めます。
何を表す数字か
TANは、水に溶けたアンモニウムイオン(NH₄⁺)と非イオン性アンモニア(NH₃)を足した合計です。単位は mg/L で、家庭の水質試験キットが読むのはこの合計のほうになります。魚の餌のたんぱく質が体の中で分解され、鰓から水へ出てくるところが始まりで、その道すじは餌からアンモニアへにまとめてあります。合計の値そのものは毒の強さを表しません。
目安の範囲
1 mg/L 未満を目安に置いているのは、ニューメキシコ州立大学の普及資料 Circular 680 です。FAO の小規模アクアポニックスの手引き(Somerville ら 2014)は、生物ろ過が働いていればほぼゼロ、多くても0.25〜1.0 mg/Lとしています。同じ手引きは、4 mg/L を超えると硝化菌の働きが大きく落ちるとも書いています。
動くと何が起きるか
先に効くのは魚です。同じ TAN でも、pH と水温が高いほど毒の側が増えます。4 mg/Lを超えると硝化菌そのものが抑えられ、アンモニアがさらに減らなくなってアンモニアが下がらないという行き詰まりに入ります。植物にとっては窒素の供給源ですが、根が吸いやすいのは硝酸態窒素(NO₃-N)のほうで、この段階ではまだ使いにくい形です。
測りかた
水質試験キットの比色で読みます。色は光と背景で見え方が変わるので、白い紙の上に置き、決めた時間ちょうどで判断します。立ち上げの間は毎日、落ち着いたら週に一度というのが普及資料の目安です。餌をやった数時間後がいちばん高く出ます。手順は比色試薬の測りかたと採水のしかたに分けてあり、日付とともに残すと上がり方の傾きが見えます。
誰がどう測った値か
1 mg/L 未満は、ニューメキシコ州立大学の Circular 680(Sallenave)が、温水魚の系にも冷水魚の系にも当てはまる目安として挙げた値です。0.25〜1.0 mg/Lのほうは FAO の手引き(Somerville ら 2014)で、小規模な系を対象にしています。どちらも家庭の実測を集計した統計ではなく、普及資料がまとめた推奨値です。
解説動画: アンモニアの毒性はpH・水温で変わる!?水槽立ち上げ初期に危険なアンモニアについて解説★めだかを飼育し始めて、死んでいく原因かも?/Hiro's Aquarium
二つの姿で溶ける: 動画は、水に溶けたアンモニアがNH₃とアンモニウムイオン(NH₄⁺)の二つの姿で同時にあることを、化学式を出して説明します。出どころは魚のふんや餌の食べ残し、枯れた水草が分解される最初の段階で、魚のえらからも代謝の産物として出ています。自然の水域では薄まるが、閉じた水槽では溜まると述べます。
pHと水温で変わる: ここが動画の芯です。pHが上がるほどNH₃の割合が増え、水温が上がっても同じように増える。つまり同じ量が溶けていても、アルカリ性に寄った水と高い水温ほど毒の側が大きくなります。魚に悪い影響が出るのは0.03 mg/L前後からで、耐える度合いは魚の種類によって差があるとも添えます。
出てくるようす: 濃くなると平衡感覚が狂い、酸素の消費が増え、昏睡のような状態に至ると説明します。見た目ではえらの動きが速い、底でじっとする、水面でぼんやりする、急にぴくぴくと泳ぐ。薄い濃さでも成長が遅れ、卵のかえる割合が下がると付け加え、立ち上げ直後の相談の多くはこれだろうと話します。
三匹でも超える: 実例として、水量25Lの30cmキューブにメダカ3匹、水温23℃で立ち上げた自分の水槽を挙げます。少なく見えるこの数でも、24時間ほどで0.03 mg/Lを超えた。地域の水道水がpH8と高いことも重なって、最初の1週間は毎日、半分から3分の1の水換えを続けたと話します。
減らす手だて: 手っ取り早いのは水換えで、ほかにゼオライトなど吸着する材を使う、入れる魚の数を減らす、餌を控える(最初の二、三日はやらなくてよい)、曝気して菌が増えやすい環境を作るを挙げます。水温をいじるよりpHを下げるほうが毒性を下げる近道だとも述べ、最後にアンモニアが無ければ菌の餌も無いと言い添えて結びます。