最初の夜の過ごし方

外に出てから30分で、何をどの順に見るか。

外に出たらまず、スマートフォンの画面を見ないようにします。目が暗さに慣れていく暗順応は、最初の五分から十分で色を見る力が落ち着き、そこから桿体が働きだして二十分から三十分でようやく使える感度に届きます。ここで白い光を見ると、せっかくの慣れはほぼ振り出しに戻ります。ひとみの開く大きさである瞳孔径も同じで、暗い中では数分かけて開く一方、明るい光には数秒で閉じるので、画面を確かめるたびに開きかけたひとみが閉じ直されます。明かりが要るときは赤い光に持ち替え、まずは十分ほど何もせず空を見上げて待つのが、外に出た直後の最初の動きです。

待つあいだに、方角を決めておきます。地球の自転によって、夜空の星は天の極と呼ばれる一点を軸に回って見えます(Eyes on the Sky)。北半球では、天の極にいちばん近い星が北極星です。北の空を一年中たどれる目じるしは、おおぐま座の北斗七星とカシオペヤ座のW字の二つで、季節や時刻でどちらかが低くなっても、もう一方はまだ高い位置にあります。北斗七星の枡の口をつくる二つの星の間を五倍ほど延ばすか、W字の両端をなぞって交わる点から中央の星を五倍延ばすか、どちらの道でも北極星に行き着きます。北の方角さえ分かれば、残り三方は体の向きで自然に決まります。

十五分を過ぎ、目の慣れが進んできたら、北極星を柄の先にした小さなひしゃく、こぐま座をたどります。枡と柄をつくる七つの星は2等から5等まで段階的に並んでいて、何個まで数えられるかが、その晩の空の暗さの手応えになります。北極星とコカブの二つしか見えなければ市街地並みの空、七つすべてそろうなら郊外並みの暗さの空と読めます。同じころ、おおぐま座の柄の先に近いミザールとアルコルも覗いてみます。二つの隔たりは肉眼の分解能の限界よりずっと広いので、慣れた目なら一つの点ではなく二つの点として見えるはずで、見えた瞬間が最初の手応えになります。

このひしゃくより淡いケフェウス座の五角形、星のない空白が頼りのきりん座、胴に暗い星ばかりが続くりゅう座は、どれも最初の夜には向きません。視線をわずかに外して淡いものを見るそらし目の技も、淡い星雲や銀河向けなので今夜はまだ使い道がありません。最初の三十分は、方角を決め、北極星を見つけ、こぐま座の星を数えるところまでで十分です。この三十分で星座を一つも覚えられなくても問題はなく、方角と北極星の位置が分かれば、次の夜からは迷う時間がぐっと減ります。

この節に出てくる図鑑の項目

出典