ラーニングピラミッド
学習の思い込み
読む10%、人に教える90%という定着率の数字
よく言われること
研修や講座の資料には、三角形の層に定着率が並んだ図が出てきます。読書は10%しか残らず、視聴覚や実演で少しずつ増えて、人に教えると90%になるという並びです。下の層ほど数字が大きいので、「能動的に関わるほど定着する」と読める形になっています。出典として学習に関する団体の名前が添えられることも多く、学び方を勧める場面では根拠の代わりにも置かれます。
実際はどうか
一次資料に当たると、この保持率の数字の出所が示されたことがありません。図の元とされる1946年の「経験の円錐」には保持率の数字が一切なく、後の1954年版と1969年版にも入っていません。人に教えると学べるという向き自体は別の研究で支持されていますが、10%や90%という数字は根拠が見つからない側です。数字だけが後から足された形になります。
なぜ広まったか
一枚の絵に数字が並ぶと層の順位が分かりやすく、研修の資料としてそのまま貼って使える形になっています。引用のときに元をたどらず、前に見た資料から数字だけを写すやり方で広がってきました。聞くだけの講義より手を動かしたほうが残るという体感とも合うので疑われにくく、数字があること自体が確かさの証拠のように受け取られています。
どう言えば正しいか
「能動的に関わるほうが学べるという向きは支持されているが、10%や90%という数字には出典がない」と言えば正確です。人に説明することの効き目は教えるつもりで学ぶの側で別に調べられています。思い出す作業が入る点は思い出す練習と重なります。図の数字の当否と、教える形の効き目は切り離して扱えます。数字を外しても助言は残ります。
確かめられ方
Letrud 2015 は、この図が学術論文の中で出典なしに引用されて広がる様子を追跡しました。Letrud 2018 は数字の出所を掘り起こし、Dale 1946 の「経験の円錐」とその1954年版・1969年版にも保持率が無いことを示しています。研究団体に由来すると紹介されることも多いのですが、元データは示されていません。追われたのは引用の連鎖なので、教える形の効き目そのものを測った研究ではありません。
解説動画(海外・英語): The TRUTH about the learning pyramid: it's a myth/Presenting Psychology
三角形と百分率: 学びの話でよく見かける三角形の図です。学び方が層に並び、それぞれにどれだけ頭に残るかの百分率が添えられ、残る量が多いとされる形ほど下に置かれます。納得しやすいのは、退屈な講義で何も残らなかった経験や、楽器のようにやって覚えた手応えと重なるからでしょう。動画はこれを作り話だとしたうえで、418本の査読論文にも載っていたと述べます。
何を測ったのか: 問題は3つに分けて示されます。1つ目は組み立て方です。まず、何を測った数字なのかがはっきりしません。「残る」とは自力で思い出せることなのか、見せられて分かることなのか。記憶の研究ではここを分けます。測るまでが1時間か1年かも書かれておらず、直後の成績は後々の学びを表さないと分かっている以上、これは大きな穴です。
層は混ざり合う: 次に、層に並んだ活動はきれいに分かれていません。スライドも動画も使わない講義がどれだけあるでしょうか。その講義は講義の5%なのか、視聴覚の25%なのか、足して30%なのか。学ぶ人の違い、教材の違い、やり方の違いもすべて畳んで一つの平均値にしている点も、雑だと指摘されます。
元の資料が無い: 2つ目は裏づけです。動画は、数字がどれも丸くきれいなことを引っかかりとして挙げます。よく引かれる版の出所とされる研究団体に問い合わせた研究者がいて、返事は1960年代に作ったがもとになった資料はもう見つからないというものでした。2018年の論文は起源を1850年代までたどりましたが、支えになる資料は出てきません。
考えた分が残る: 3つ目は、記憶の研究と噛み合っていないことです。記憶は録画のように残る説は1930年代に退けられており、思い出すたびに手持ちの知識や期待から組み立て直されます。だから残る量を決めるのは活動の種類ではなく、そこにどれだけ考えを入れたかです。ただ読み返すだけでは残らないが、問いを立てて説明しながら読むと変わる、と例が挙がります。