線を引く・色を塗る
学習の思い込み
教科書に線を引き色を塗ると記憶に残るという説
よく言われること
「大事な所に線を引くと目に残り、後で見返したときに覚えやすい」と言われます。色を分けて意味を持たせる、教科書を塗り分けるといった流儀も添えられます。勉強を始めた人が最初に手に取る道具で、参考書の使い方としても標準の作業のように載っています。学生の多くが主戦力にしていると報告されています。文房具の売り場でも当たり前に並んでいる方法です。
実際はどうか
学習法を並べて比べた総説では、この作業は最も評価の低い群に置かれています。線を引いた群と読むだけの群で、後のテストに差が出ない結果が多いからです。ただし引く量を絞る、自分で重要な所を判断するといった条件つきなら役に立ちうるという整理もあります。中身があるのは引く行為より判断の側で、線を引くこと自体を禁じる話ではありません。
なぜ広まったか
紙面が変わって作業が進んだ形になるので、手応えがその場で出ます。塗った箇所は次に開いたとき目に入るため、覚えている感じも残ります。わかった気が強く出る典型で、道具が安く手軽なことも重なりました。引いた線をたどって読み直す形は、何度も読み返して覚えると弱点が同じです。手が動いた分だけ進んだ気になるところが厄介です。
どう言えば正しいか
「引けば覚えられる」ではなく、「どこが大事かを自分で決める作業に意味があり、色そのものは残らない」と書き換えると、総説の位置づけと合います。だから最初から線が入っている教材や塗りすぎた紙面では消えます。引く量はぐっと絞って自分で選び、引いた所は隠して思い出す練習に回すほうが裏づけがあります。色の分け方の工夫は、まだ調べられていない部分です。
確かめられ方
Dunlosky ら2013 の総説が学習法を並べて比べ、線引きと下線を役立ち度が低い群に分類しました。比べられているのは主に大学生と教科書のような文章で、測っているのは読んだ後に受けるテストの成績です。Miyatsu ら2018 は引く量を絞る使い方なら役に立ちうると整理していますが、条件を絞った検証はまだ少ないままです。
解説動画(海外・英語): A Simple Study Tip: Stop Highlighting/Benjamin Keep, PhD, JD
効きそうに見える: 動画は、蛍光ペンは誰もが好きなのに学びに効くかを測ると振るわないと切り出します。理屈のうえでは効きそうです。目を文字の上に流すだけの読み方と違って能動的に読む形になりますし、大事な所とそうでない所を選り分ける作業そのものは、中身をつかむ最初の一歩でもあるからです。
引きすぎてしまう: うまくいかない理由を3つ挙げます。1つ目は、そもそも引き方が上手ではないこと。よくあるのが引きすぎで、どこもかしこも色がついていれば何も引いていないのと変わりません。どこが大事かを決める骨の折れる作業を通っていないので、手元には明るくなった紙面だけが残ります。
引く場所を外す: 同じ理由のもう半分が、引く場所を間違えることです。学び始めの時点で大事だと思った所は、理解が進んだ後の自分から見ると外れていることがあります。それでも紙面には過去の自分からの合図が残るので、当時の浅い読みに引き戻されます。動画はこれを、自分で自分の足を引っぱっている状態だと言います。
読み返しを呼ぶ: 2つ目の理由は、線を引くともう一つの効かないやり方を呼び込むことです。読み返しが役に立つ場面もあるものの、多くは中身に踏み込まない逃げ道になっている、と動画は述べます。そして読み返さないのであれば、そもそも引いた意味がありません。動画は、それでは時間の無駄に見えるとも言い添えます(何度も読み返して覚える)。
覚えた気が残る: 3つ目はわかった気を作ることです。色をつけた瞬間に「後で覚えよう」と思うものの、そのための何かをするわけではありません。色のついたページは読んだ証拠にはなりますが、頭を使った証拠にはならない。動画は、問題は引く行為そのものより使い方の側にあるとしたうえで、同じ時間を使うならもっとよい手があると結びます。