ワインの涙

台所と水まわり

グラスの壁を上がって垂れる、蒸発がつくる筋

何が起きている?

グラスを回してから置くと、内側の壁に薄い膜が上へ這い上がり、しばらくすると輪のように並んだしずくが壁を伝って垂れてきます。度数が高いものほどはっきり見えます。「よいお酒の証」と言われることがありますが、見えているのは主に度数と糖の量の違いです。

なぜそうなるか

壁に残った膜は薄くて表面が広いぶん、アルコールが先に蒸発して抜けます。アルコールが抜けた場所は液どうしの引き合う力が強くなり、強い場所が弱い場所から液を引き寄せます。こうして下の液は壁を伝って上へ引き上げられ、上に溜まって重くなると、今度は重力が勝って垂れます。蒸発を止めれば引き上げる力も消えるので、ふたをすると涙も止まります。

確かめ方

脚付きのグラスを二つ用意し、同じものを少量ずつ入れて両方を回し、壁をひととおり濡らします。片方だけラップでふたをして並べ、五分ほど待ってください。ふたをした側は蒸発が止まるので膜が上がらず、涙もできません。お酒を使うので飲む人だけで試してください。

つながる現象

引き合う強さの差が液を引っぱる仕組みはマランゴニ効果で、味噌汁の表面に出る模様と同じ働き手です。膜が壁に張り付いて残るかどうかは、液とガラスの相性を表すぬれと接触角で決まります。洗い残しの油分があるだけで膜は途中で切れ、見え方はすっかり変わってきます。グラスの形や洗い方を変えて並べると、違いが読み取れます。

解説動画(海外・英語): The science of wineglass tears (or wine legs)/Applied Science

「脚」で品質は読めない: グラスを回すと内側に広がった膜がすぐ細い筋に割れて落ちる。この筋を見ればワインの質や甘さが分かるという言い伝えを、動画は茶葉占いの類で当たらないと切り捨てる。アルコールの量とは多少つながるものの、グラスの温度・室温・湿度・グラスの汚れのほうがはるかに大きく効くからだ。

水とエタノールの二つの差: ワインは水とエタノールの混ざりもので、効いてくる違いは二つに絞られる。水のほうが表面張力が高いことと、エタノールのほうが早く蒸発すること。手でグラスを温めると壁に残った薄い膜からエタノールが先に飛び、膜はもとのワインより水に寄った組成へ変わる。

上へ引かれて玉が落ちる: 表面張力の高くなった膜は、グラスの中のワインから自分のほうへ液を引き上げる。蒸発が続くほど上に集まり、膜の上端に水の玉ができる。玉が育つと筋になって落ち、また引き上げが始まる。動画はこれをマランゴニ効果と呼び、熱を入れると回る一種の熱機関だと言う。ヒートガンで温めると動きだす。

三つの実演で確かめる: 浅い皿のワインに純アルコールを一滴落とすと、水の多いワインがアルコールの濃い場所から逃げていく。石けんを塗った紙の舟が進むのも同じで、船首側の表面張力が引く。水とアセトンの組ではエタノールより蒸発が速いぶん、膜がずっと高い位置まで上がった。

涙が出ないグラスの謎: 撮影で涙がまったくできず行き詰まった原因は、食洗機で使う乾燥仕上げのリンス剤だった。ガラスに貼りつくよう作られた薬剤で、水を粒にも筋にもせず膜のまま流し落とす。同じ表面張力の使い道はパソコンのヒートパイプにもあり、二種類の液体を封じて凝縮した液をCPU側へ戻す働きをさせている。