やかんが鳴る
台所と水まわり
蒸気が笛を鳴らし、沸く直前に音が変わる
何が起きている?
笛付きのやかんは、沸くと高く澄んだ音を出します。その前にはシューという曇った音が続き、沸騰が始まる直前にいったん静かになることもあります。移り変わる順番はいつも同じなので、慣れるとあとどれくらいで沸くかが耳で見当をつけられ、目を離していても気づけます。
なぜそうなるか
笛では、蒸気が小さな穴を続けて二つ通り抜けます。勢いが弱いうちは笛の中に閉じ込められた空気が縮んでは戻る往復で鳴り、器そのものの音になります。勢いが増すと、出口のふちで渦が規則正しく生まれては離れ、その繰り返しが高さを決める側へ回るので音程が跳びます。跳ぶ湯量は笛の形しだいで一つの数字では言えません。沸く前の曇った音は別もので、底で生まれた泡が上の冷たい水に潰される音です。
確かめ方
やかんは火のそばなので、注ぎ口に顔や手を近づけないでください。音の作り方だけなら紙で試せます。紙を一枚立てて縁へ細く息を当てると、当て方しだいでヒューという音が立ち、息の角度を変えると鳴ったり止まったりします。口の細い瓶に横から息を吹けば、今度は器の空気が鳴る低い音になります。
つながる現象
縁で息がぶれ、器の空気が鳴って大きくなる仕組みはヘルムホルツ共鳴と隣り合わせです。沸く前の曇った音のほうは、泡が潰れる瞬間に音と衝撃が出るキャビテーションと同じ仲間にあたります。泡の潰れ方が音色を、蒸気の勢いの強さが高さを決めていて、音の順番はいつも同じです。だから湯気の音は台所でいちばん身近な合図になり、慣れると耳だけで段取りを組めます。沸いたあとに音が細くなるのも同じ通り道の話です。
解説動画(海外・英語): Warbling Whistles Are Weird/Steve Mould
やかんの笛は穴が二つ: 作者がいちばん意外だと言うのが、やかんの笛。息を当てるくさびも、鳴らす空洞も無く、穴のあいた円板が前後に二枚並んでいるだけ。それだけで鳴ってしまう。縁にくさびを持つふつうの笛とは仕組みからして別ものなので、動画はやかんの笛から先に説明していく。
穴から出た息は自分で振れる: 一つの穴を通った空気の噴流は、それだけで不安定で、上下に振れ出すことがある。作者の直感的な言い方はこう。流れが少し片側へずれると、そちら側は空気が引き伸ばされ、反対側は詰まるので圧力に差ができ、高いほうから低いほうへ押されて流れは反対へ振れる。勢いで行き過ぎ、また戻る。ただし本人は実際はもっと複雑だと断っている。
二枚目の穴が振れを増やす: 振れている噴流が、出口になる二枚目の穴のふちに当たると効果が増幅され、向きだけでなく強さまで激しく変わる。音の高さは噴流の速さで決まるので、やかんの笛は流れを強めるほど高さがなめらかに上がる。息を強めても段ごとにしか飛ばないふつうの笛(倍音の切り替わり)とは、ここが分かれ目になる。
ふつうの笛は器で高さが決まる: くさび式では、穴の形と息の速さとくさびの形で高さが決まる。ただし文献によると、楽器を吹く程度の速さでは人に聞こえない高さになり、音も小さい。そこへ空洞をつなぐと聞こえる高さで大きく鳴り、今度は高さが空洞の形と大きさだけで決まる。空洞の空気はばねのようで、圧力が上がれば押し返し、下がれば戻る往復が音になる(動画は別の型の笛としてヘルムホルツ共鳴器にも触れる)。
水を入れると音が揺れる: 水入りの笛が鳥のように鳴る理由も、ここに行き着く。吹いた息は笛を鳴らすと同時に容器の水も押すので、水の中を泡が通り抜ける。泡が通るたびに空洞の形が変わり、高さを決めているのはその空洞だから、音程が上下する。作者いわく揺れ方は読めるときも、でたらめなときもある。