スクラッチタイル

材料と仕上げ

時代: 明治以降

表面に縦の引っかき目を並べた、釉薬をかけないタイルです。筋の底に影が落ちるため、広い壁面でも平らな板のようには見えません。

どんな材料・造作か

粘土の素地に櫛のような道具で縦の筋を入れ、釉薬をかけずに焼いたタイルです。筋の底へ影が落ちるので、大きな壁面でものっぺりせず、雨だれの跡も目立ちにくくなります。出発点は旧帝国ホテル本館(ライト館)に使われたスダレ煉瓦で、専用の製作所が愛知県常滑に置かれ、そこで焼かれました。中央玄関の部分は愛知県犬山市の博物館明治村へ移されており、筋の深さや縁の欠けまで間近に見られます。常滑は今もタイルの産地として続いています。

見分けの決め手

壁に近づいて、筋が縦に通っているか、間隔が揃いすぎていないかを見ます。素地を押し出して線を引くため、手の仕事のぶれが一枚ごとに残ります。釉薬をかけないので光沢が無く、焼きの加減で色が一枚ずつ違い、壁全体では斑に見えます。寸法は二丁掛(長さ227mm・幅60mm)が多く、京都の京都大学百周年時計台記念館や東京の東京大学大講堂の壁では、目地の割り付けごと確かめられます。日の傾いた時間ほど筋の影が立ちます。

いつ頃のものか

大正末から昭和初期、とりわけ関東大震災からの復興期に集中します。旧帝国ホテル本館の完成が1923年(大正12年)で、そこから官庁・学校・銀行へ広がり、昭和6年ころに流行が頂点を迎えたと、INAXライブミュージアム(建築陶器のはじまり館)の解説は整理しています。京都の京都大学百周年時計台記念館は1925年(大正14年)の竣工で、東京の東京大学の校舎群も同じころに建ちました。戦後は光沢のあるタイルへ置き換わっていきます。

取り違えやすい相手

後年に張り替えたスクラッチ調のタイルが相手です。筋の乱れと色のばらつきを見て、揃いすぎていれば新しい仕事を疑います。同じ押し出しの焼き物でもテラコッタは型で作る大形の部材で、軒や柱頭に立体として載ります。筋の入った化粧煉瓦とも紛れますが、厚みが煉瓦一枚ぶんあるかで分かれます。愛知県常滑のINAXライブミュージアムには、その両方の実物が並べて展示されています。厚みと大きさの二つで、たいていは決まります。