ウルビーノのヴィーナス

ルネサンス

ティツィアーノ・ヴェチェッリオ/1538年

どんな絵か

119×165cmのカンヴァスに油彩。寝台に横たわる裸の女性が、見る側をまっすぐ見返している。足元に丸まった小犬、奥では二人の女中が衣装箱をのぞき込む。神話の一場面というより、実在の部屋の情景に見える。ウフィツィ美術館蔵。

どこを見るか

体は左下から右上へ伸びる対角線構図。背後の暗い垂れ幕が画面をほぼ左右に割り、明るい体が暗い側、奥の部屋が明るい側に来る。光は右から入り、白いシーツと肌だけが強く光る。床のタイルの目地が奥へ縮む遠近法が、寝台の後ろに部屋一つ分の深さを作る。

使われている技法

カンヴァスに油彩。輪郭を線で決めず、絵の具の量と色の差で形を出している。肌は暖色を薄く重ね、シーツの白は厚めに置いて筆あとを残す。近くで見ると塗りが粗いのに、離れると質感がぴたりと合ってくる。

描かれた背景

ティツィアーノが1530年代に描き、1538年にウルビーノ公グイドバルド2世が買い取った。制作年を1534年ごろとする資料もある。ジョルジョーネ《眠れるヴィーナス》と姿勢が重なり、屋外で眠る女神が室内で目を開けた女性に置き換わっている。結婚にまつわる絵と読む説と、官能を主目的と読む説があり、どちらとも決まっていない。三百年余りのち、マネのオランピアが同じ姿勢を引き継いだ。

解説動画: ヴェネツィア派の全盛期に描かれた私的な裸婦像/らち-ART-

どんな絵として紹介しているか: フィレンツェではなくヴェネツィアで活躍したティツィアーノの代表作として取り上げている。解剖学や一点透視図法を重んじたフィレンツェ派に対し、ヴェネツィア派は色彩と大胆な構図を先に置いたと対比し、1538年のこの絵は、皇帝から称号を受けて注文が殺到していた全盛期の一枚だと位置づける。

ポーズの出どころ: ポーズは兄弟子であり好敵手でもあったジョルジョーネの作品から受け継いだもので、その死後にティツィアーノがより官能的に描き直したのがこの絵だと説明する。さらに1863年にマネが同じポーズで娼婦を描いて物議をかもしており、三枚を並べて見比べると違いが分かりやすいと勧めている。

誰のために描かれたか: 教会の壁画のように大勢へ見せる絵ではなく、ウルビーノ公の注文で寝室や浴室のような私的な場所に飾るために描かれた絵だと述べている。そういう仕事を任されること自体が、ティツィアーノがそこまで認められていた表れだという見方を示し、この官能の描き方がのちに女性像を描くときの手本になったとも言う。

どこを見るか: 手に持ったバラはヴィーナスの象徴で、愛の寓意としてよく使われるものだと説明する。足元の小犬にも触れ、貞節を示すために犬を添える描き方があるのに対して、ここでは犬が眠り込んでいるぶん、そう堅い意味には読めないという見方を示している。