快楽の園
ルネサンス
ヒエロニムス・ボス/1490〜1510年ごろ
どんな絵か
オークの板に油彩の三連祭壇画。開くと約205×385cmの横長になり、左にエデンの園、中央に裸の人々と巨大な果実で埋まる庭、右に暗い地獄が並ぶ。閉じると灰色一色の球体、天地創造の途中の世界が現れる。プラド美術館蔵。
どこを見るか
三枚とも上・中・下の帯に分かれ、三分割法のように水平線が二本走る。左と中央は明るい空、右だけ黒く炎が上がる明暗の落差で、右へ行くほど画面が重くなる。中央は青い水と肌色の人、赤い果実が反復とパターンで散り、主役が一人もいない。
使われている技法
油彩を薄く置き、白い下地を透かせて色を出している。人物には数センチしかないものが多く、細い線で輪郭を取ってから内側を塗る。近くでしか読めない図が、離れると色の帯としてまとまって見える。板は三枚で、両翼は裏にも描かれており、閉じると外面の灰色の絵が現れる。
描かれた背景
制作年は1490〜1510年ごろと幅があり、注文主も確定していない。快楽への警告と読む説、失われた楽園を描いたと読む説などが並び、決定的な解釈はまだない。ボスは1516年に没しており、本人や工房の記録が乏しいことも読みが定まらない理由になっている。
解説動画: 快楽の園を罪の絵として読む構造と細部の解説/Great Art Explained
どういう絵として位置づけているか: 性の解放でも幻覚体験でも、教会への異端的な攻撃でもないと最初に否定し、これは罪について描かれた徹底してキリスト教的な絵だという立場を取る。中世では性行為は人間の堕落の一因と見なされていたとして、現代の感覚のまま見てはいけないと念を押す。ボスは中世の画家と思われがちだが、レオナルドと同時代の北方ルネサンスの画家だとも説明している。
三枚の画面の組み立て: 一見混沌としているが実は綿密に組まれていると述べ、中央のひとつだけ孵化していない卵を消失点に置くと構図の秩序が見えてくる、という読み方を示す。三枚は共通の水平線でつながって前景・中景・後景に分かれ、中景にはどれも水があり、背景には塔が立つ。板の寸法は中央220×195cm、両翼220×97.5cm。
描き方と細部の読み: 筆跡を消して薄い層を重ねたファン・エイクに対し、ボスは絵具を厚く置いて筆あとを残す描き方だと対比している。中央の庭では中身が空洞の果実が女性の体を指し、当時のオランダ語で果物を摘む・鳥という語がそのまま性行為の言い換えだったと説明する。噴水そのものが壊れやすく描かれているのも、快楽が長続きしない印だという。
誰に向けて描かれたか: ボスが没した翌年の1517年に、この絵がナッサウ家ヘンドリック3世のブリュッセル宮殿にあったことは確かだとして、1504年にその町を訪れた際の注文ではないかと推測している。招いた客に隕石や巨大な寝台と並べて見せる品のひとつで、会話のきっかけとして設計された絵という美術史家の見方を紹介する。