プリマヴェーラ

ルネサンス

サンドロ・ボッティチェリ/1480年ごろ

どんな絵か

202×314cmの板にテンペラ。暗いオレンジの木立を背に、八人の人物が横に並ぶ。中央の女性の頭上では目隠しをしたクピドが矢を構え、足元の草地には190種ほどの花が一つずつ描き分けられている。ウフィツィ美術館蔵。

どこを見るか

左端の男は上を向き、右端の風の神は横から吹き込む。両端の動きが内へ向かうので視線は中央へ戻る。中央の女性だけ一歩奥に下がり、頭上の枝がアーチ状に開く日の丸構図。人物がほぼ等間隔に並ぶ反復とパターンを、三美神の輪と踏み出した足が崩している。

使われている技法

ポプラの板にテンペラ。卵で溶いた絵の具は乾きが速く、塗った先で混ぜてぼかすことができないため、細い線を並べて濃淡を作る。衣の薄さは白を細かく重ねて出しており、輪郭がはっきり残るのはこの画材の性質による。金も部分的に使われている。

描かれた背景

1480年前後にメディチ家のために描かれたとされるが、注文の経緯も最初に飾られた場所も確実ではない。古代ローマの詩の一場面を並べたと読む説が長く支持されてきた一方、結婚や愛の寓意と見る説もあり、解釈は一つに定まっていない。

解説動画: 登場人物の見分け方と、聖母マリアを重ねる読み/山田五郎 オトナの教養講座

誰が描かれているか: 右端の緑色の男が西風の神ゼフュロスで、捕まえられているのがニンフのクロリス、さらわれた後に花の女神フローラになるという神話から説明を始める。中央は頭上にクピドがいればヴィーナスと見てよい。左の三人はパリスの審判ではなく三美神で、愛・貞節・美を表すと言われる。左端は杖を持って雲を払っているのでヘルメスだとしている。

季節の寓意として読む: 西風が吹いて春が来て、次の季節へ移っていく流れの絵として一般に捉えられていると説明する。4月は女神アプロディーテに由来するという説があり、5月15日がメルクリウスの祭りにあたるので、左端の神が雲を払う姿は初夏へ向かう合図になる。右から左へ季節が進む構成として読んでいる。

誰のために描かれたか: メディチ家のロレンツォ・ディ・ピエルフランチェスコの結婚祝いで、彼が結婚した1482年の前後に描かれたとするのが今の定説だと紹介する。背景に実るオレンジはメディチ家の象徴。ウフィツィで《ヴィーナスの誕生》と並ぶため対だと長く思われてきたが、1499年の財産目録が見つかり、対で飾られていたのは《パラスとケンタウロス》の方だったと分かったという。

聖母マリアを重ねる見方: 中央の女性の腹がふっくらしているのは子宝祈願と読まれるのが一般的だが、動画はヴィーナスの背後だけ木立が丸く抜けて光背のように見える点を挙げ、聖母マリアを重ねているのではないかと解釈する。当時のフィレンツェではギリシャ哲学とキリスト教を結ぶ新プラトン主義が流行しており、肉体の愛から精神的な愛へ高めよという願いを結婚祝いに込めたのではないかと述べる。本人がそこまで考えたかは分からないとも断っている。