跳ね返りと壁の水膜

当てかたと間欠

当たった粒の全部が根に残るわけではありません。跳ね返った粒は壁や床に水の膜を作り、そこから流れ落ちます。

どんな仕組みか

面に当たった粒は、そのまま付くとはかぎりません。付着・跳ね返り・分裂の三つに分かれ、どれになるかは粒の速さと大きさ、面のぬれやすさと形で決まります。すでに濡れている面では、当たった粒は膜へ吸い込まれるか、膜ごとしぶきになります。根に付かなかった分は壁と床へ回り、薄い水の膜になって回収槽へ落ちます。その分を数える話は水の収支が受け持ちます。

粒径と圧力の目安

Zheng ら 2023 がイネの葉を対象に数値計算で解いた例では、毎秒4 m で当たる50 µm の粒は葉の曲率半径が25〜120 cmの範囲で跳ねませんでした。200 µm と500 µmの粒はぎりぎり付着したとき287 µm と772 µmまで広がり、分裂しはじめる広がりは50・200・500 µm の順に168・636・1411 µmでした。

根に届くまで

投入した量と、根に届いた量は別ものです。跳ね返った粒と、根のあいだを素通りした霧は栽培チャンバーの壁と床に着き、そこで膜になって流れ落ちます。閉じた系では、その液はタンクへ戻ってまた噴かれるので、なくなったようには見えません。使った液の量だけを見ると、この分まで根に届いたことにしてしまいます。壁で失われる分の見積もりは壁と結露に取られる霧の側にあります。

詰まりと劣化

壁と床に残った膜は、乾けば塩を残し、乾かなければ生きものの住処になります。戻った液はタンクの養液が濁ってぬめる側の原因に数えられます。膜がノズルの近くまで這えば、噴口のまわりに塊ができて形が崩れます。粒が当たる面が変わっていくということでもあり、時間とともに跳ね返り方も動きます。噴霧栽培のチャンバーの壁で跳ね返りを測った資料は見当たりません。

誰が、何を、どう測った値か

跳ね返りと分裂の数値は Zheng ら 2023(Plant Methods 19:116、CC BY)が、イネの葉を曲面として数値計算で解いたものです。農薬散布のための計算で、噴霧栽培の壁でも根でもありません。当たり方の分かれ道そのものは液滴衝突の一般的な扱いですが、養液・湿った壁・細かい霧という条件でそろえた測定は、こちらでは確認できていません。

解説動画: MIT Researchers find a way to make Pesticides stick to Leaves instead of bouncing off/Rajamanickam Antonimuthu

当たっても残らない: 動画は、畑に薬液を散布したとき葉に付くのは全体の2%だと言います。かなりの部分はそのまま跳ね返って地面に落ち、流れ出して川へ入り、汚れの原因になります。葉の表面はもともと水をはじく性質を持つ株が多く、それが粒を跳ねさせている、というのが出発点です。当てた量と残る量は別だ、という話から始まります。

表面張力を下げても: これまでの手は界面活性剤で、粒の表面張力を下げて広がりやすくするやり方でした。動画は、試験で得られた改善はわずかだったと述べます。速い粒は表面張力が変わりきる前に跳ねてしまううえ、界面活性剤を入れると粒が細かくなって風に流されやすくなるからです。細かければよいわけではない点は小さすぎる霧は届かないと同じです。

電気で貼りつける: MITの研究チームが採ったのは、高分子を二種類使う方法です。液を二系統に分け、片方には正の電荷を、もう片方には負の電荷を与える高分子を加えます。逆の電荷を持つ粒が葉の上で出会うと、水になじむ小さな箇所ができ、そこが面に貼りついて、後から来る粒がそこに残りやすくなる、と説明されます。狙っているのは面の性質のほうです。

見積もりと装置: 研究室での試験にもとづく見積もりとして、同じ効きめを10分の1の散布量で得られる可能性がある、と動画は述べます。使う高分子は自然にあるもので分解され、身近な材料から作れるとも言います。装置の側は液を二系統に分ける小さな改造で済み、いま使っている散布機をそのまま活かせる、という話です。

跳ね返りの側から: 扱っているのは葉と薬液ですが、見ているのは面に当たった粒が残るか跳ねるかという分かれ道そのものです。面のはじきやすさと粒の速さ、そして粒の細かさが効くという筋道は、霧を根に当てる側でも同じ形で問えます。跳ね返った分がどこへ行くかは、根をつつむ水の膜の厚みとは別に数えることになります。