飛んでいる間に蒸発する
当てかたと間欠
粒は飛びながら小さくなります。噴霧室の湿度が高いほど蒸発は遅く、乾いた空気ほど早く痩せます。
どんな仕組みか
蒸発は粒の表面で進むので、乾いた空気の中では直径の二乗が時間に対してほぼ直線的に減るという近似が使われます。これがD²則です。気温が高く湿度が低いほど、そして粒が細かいほど、消えるまでの時間は短くなります。同じ距離を飛ぶあいだでも細かい粒ほど先に消え、溶けていた成分だけが小さな粒として残ります。飛べる時間の話は霧の滞空時間と落下距離の側です。
粒径と圧力の目安
Chen ら 2024 が屋外の条件で解いた計算では、30℃・相対湿度60%のとき100 µm と150 µm の粒は直径が4〜14%、質量が12〜35%小さくなり、40℃・相対湿度30%では直径12〜38%・質量31〜76%まで進みました。150 µm を超えると蒸発は無視できる一方、80 µm 未満は中くらいの条件でも急速に、あるいは完全に消えます。
根に届くまで
噴霧室の中は事情が違います。Lee ら 2026 の根圏は相対湿度94.5〜96.5%で、空気がほぼ湿りきっているぶん蒸発は遅くなります。Wang ら 2022 は、古典的なD²則は周りの湿った空気の雲を無視するので寿命を短く見積もると整理しており、低温で湿度が高いほど当てはまりが悪くなります。湿った室では、出た粒と着いた粒の差は小さくなります。
詰まりと劣化
蒸発は、詰まりの側にもつながります。止まっているあいだにノズルの先で液が乾けば、溶けていた塩がそこに残り、ノズルから霧が出なくなる入口になります。壁に着いた膜も、乾いた場所から白い跡になって残ります。乾ききった跡はこすっても落ちにくく、噴口の内側にできれば噴霧の形の崩れとして先に出ます。気化熱で根圏が何℃下がるかは、測定条件つきの資料をこちらでは確認できていません。
誰が、何を、どう測った値か
蒸発の数値は Chen ら 2024(Heliyon、CC BY)が青海チベット高原の屋外散布を想定して解いた計算で、閉じた栽培室で測った値ではありません。D²則の限界は Wang ら 2022(J R Soc Interface 19(186))で、呼気の飛沫を扱った論文です。根の表面の膜は根をつつむ水の膜、細かすぎる霧の行方は小さすぎる霧は届かないにあります。
解説動画: Transfer of respiratory pathogens: Airborne droplets/MIT OpenCourseWare
粒の行方は三つ: 講義は、空気中に出た粒の行き先を三つに分けます。重い粒はそのまま落ちて表面に着く、小さい粒は蒸発して消える、そして落ちも消えもせず長いあいだ浮いたままになるものです。どれになるかを決めるのはまず大きさだ、と置いたうえで、落ちる時間と蒸発する時間をそれぞれ見積もっていきます。
落ちる時間と蒸発: 落下はストークスの法則で見積もります。落ちきる時間は半径の二乗に反比例し、大きい粒ほど速く落ちる形です。蒸発のほうは、水蒸気が周りへ拡散していく過程だとすると、時間が初めの半径の二乗に比例し、1から相対湿度を引いた値で割る形になります。湿った空気ほど長く残る、という関係が式に入っています。
ウェルズの曲線: この二本を大きさに対して描いたのが、1934年に疫学者ウェルズが示した曲線です。落下の線と蒸発の線は交わり、交点より小さい粒は落ちる前に消え、大きい粒は消えるより先に落ちます。純水では交点が70マイクロメートル・約3秒あたりで、0.7マイクロメートルまで下げると0.3ミリ秒で消える計算になります。
湿度が寿命を延ばす: 湿度はこの絵を大きく動かします。相対湿度90%なら蒸発の項は10倍遅くなり、数秒だった交点が30秒あたりまで延びると述べます。湿度が高いほど蒸発は遅く、蒸発より落下をたどる粒が増える。曲線はもっと先まで延ばせるとも言い、それでも交点はどこかに必ずある、と付け加えます。
純水ではない粒: 最後に、この絵は単純すぎると講義自身が言います。実際の粒には溶けているものや固形のものが入っていて、なかでも塩は水を抱えるので、出たあとにむしろ大きくなる粒さえ観測されている。純水の式が予想するほど早くは消えず、0.5マイクロメートル付近に山を持つ粒が残ります。中身が変われば行方も変わる話は液が変われば粒も変わるへ。