物の響きがよく聞こえると雨

音・生きもの・体の言い伝え

遠くの音が近いのは、音の道が曲がるからです。地面の近くが冷えて上空のほうが暖かい重なりになると、上へ向かった音が下向きに折り返され、普段は届かない距離まで運ばれます。

どう言われているか

気象庁 秋田地方気象台は、「物の響き(汽車・鐘・川瀬等)がよく聞こえると雨」を音の言い伝えとして挙げています。海上保安庁 留萌海上保安部の全国共通の欄にも「鐘の音がよく聞こえるときは雨の前兆」があり、二つの一次資料が重なる数少ない一件です。留萌側は地上付近と上空の温度差が小さいときに音が遠くまで届くと、しくみまで添えています。体の感じ方を手がかりにするあかぎれが痛むと晴れと同じ組の一件です。

空で実際に起きていること

音の速さは空気の温度で決まり、暖かい空気ほど速く伝わります。地面が冷えて上空のほうが暖かい接地逆転層ができると、斜め上へ出た音の波は速い上の層で先へ進み、進む道が下向きに折り返されます。曲がった音は地面との間で反射をくり返しながら遠くへ運ばれ、普段は頭上を越えて散っていく音が、離れた場所の耳に届きます。同じ逆転層の下では湿りがたまり、層雲が低く広がることもあります。

どこまで当たるか/どんなときに外れるか

外れる理由は、同じ温度の重なりが雨と関わりなくできることです。晴れて風の弱い夜は地面が放射で冷えて逆転層ができ、霜や露の降りる朝と同じ条件が、そのまま音のよく届く条件になります。雪の積もった面の上でも同じことが起きます。加えて周りの騒音が減っただけの日と区別がつかない難しさがあり、聞こえ方の変化を音源の側と切り分ける手立てが、体ひとつでは残っていません。

この言い伝えが見ている雲・現象

触れているのは空の高いところではなく、地面の近くの気温の重なり方です。暖かい空気が冷たい空気の上へ乗り上げてくる場面でも逆転層はできるので、前線が近づくときの空気の重なりと条件が一致する日があります。届く範囲は音の伝わり方までで、雲がどこまで来ているかは空の側を見て確かめる必要があります。遠い山が近くに見えると雨は、同じ重なりを目で拾った一件です。