老化(β化)
でんぷん
炊けたごはんが時間とともに硬くぼそつく変化です。檜作進は0℃付近が最も速く、60℃以上や−10〜−20℃の凍結ではほとんど起こらないとしています。冷蔵庫はこの最も速い温度帯にあたります。
図: 温度で、ごはんが硬くなるか、火が通るか
老化(β化)=炊いたごはんが冷めて硬くなること、糊化(α化)=生の米に火が通ること。檜作進(1970)と農林水産省によると、老化は0℃付近で最も速く、−10〜−20℃と60℃以上ではほとんど起こらない。糊化は60℃付近から始まり、98℃以上で20〜30分あれば十分とされる。
何が起きているか
糊化でほどけたでんぷんの鎖が、時間とともに再び並び直して水を放し、硬くぼそついた状態へ戻る現象です。糊化(α化)と逆向きの変化で、冷蔵庫のごはんが硬いの正体にあたります。失われているのは水そのものではなく、水を抱えていた構造のほうで、温度を60℃以上へ戻すと粘りはある程度戻ります。味の劣化全体を指す語ではありません。
何によって変わるか
檜作進は0℃付近で最も速く、−10〜−20℃の凍結ではほとんど起こらず、60℃以上でも起こらないとしています。凍結で止まるのは水が結晶して分子が動けなくなるためと説明されています。冷蔵庫に入れるは最も速い温度帯を選ぶ行為で、冷凍すると保温するは逆側にあたります。水分でも変わり、30〜40%が最も老化しやすいとされます。
よくある勘違い
「冷めると水分が抜けるから硬くなる」という言い換えは誤りです。ラップで包んでも硬くなるとおり、原因は蒸発ではなく、糊化(α化)でほどけた鎖が並び直して水を抱えられなくなることにあります。よく炊けた米飯の水分は63%前後で、最も老化しやすい範囲の近くです。この向きを取り違えると、残ったご飯は冷蔵庫に入れるが最も速い温度帯を選ぶ手順だと気づけません。
台所での意味
残ったご飯の置き場所は、温度と水分の2本で決まります。冷凍するは老化の止まる側、冷蔵庫に入れるは最も速い側で、同じ「冷やす」でも向きが逆になります。残ったご飯は熱いうちに冷凍するも保温にしておけば劣化しないも、この2本の上に置き直すと、どこまでが測られた話なのかが見えます。温め直しても硬いときの手がかりにもなります。
解説動画(海外・英語): Starch Retrogradation | The Science of Stale Bread/PostHarvest
硬くなるのは何か: 動画は、3日たったパンが硬くなる正体をでんぷんの並び直しとして説明します。主材料の小麦粉は約70%がでんぷんで、でんぷんはブドウ糖がつながった鎖です。鎖には直鎖のアミロースと枝分かれしたアミロペクチンの2種類があり、この違いが以降の説明の土台になると述べます。
熱と水でほどける: でんぷんは水があるところで80℃前後まで加熱されると、水を吸って膨らみます。動画はこれを糊化(α化)と呼び、鎖どうしをつないでいた水素結合が切れ、水と新しく結び直すと説明します。粒が膨らむ過程ではアミロースの一部が外へ溶け出し、溶液にとろみが付くようになると続けます。
冷えて並び直す: 加熱しすぎや力で粒が壊れると鎖が溶液へ放たれ、鎖どうしが結び付いて水を閉じ込めたゲルになります。冷えるにつれて網目は互いに近づき、元の結晶に近い状態へ戻ります。でんぷんどうしの水素結合が作り直され、抱えていた水が少しずつ外へ出される——ここが老化だと述べます。
遅らせる手立て: 動画は老化そのものを無くすことはできないとし、遅らせる方法だけを挙げます。乳化剤ではレシチンやジアセチル酒石酸モノグリセリド、増粘多糖類では水を抱え込ませるCMCを配合に加える形で、いずれも水分が逃げるのを抑える側の手立てです。これらはパンを作る側の話として示されます。
米飯で読むと: 題材はパンですが、描かれているのは水が外へ逃げる話ではなく、並び直した鎖がゲルの中の水を手放す過程です。この向きで読むと、米飯で起きる冷蔵庫のごはんが硬いも、名前が違うだけの同じ変化として並びます。動画は、遅らせることはできても止められない変化なのだと結びます。