糊化(α化)
でんぷん
生のでんぷんが水と熱で粘りのある状態に変わります。炊飯で起きていることの本体で、農林水産省はこの変化が60℃付近から始まり、完全に変わりきるには98℃以上で約20分の加熱が必要としています。
図: 温度で、ごはんが硬くなるか、火が通るか
老化(β化)=炊いたごはんが冷めて硬くなること、糊化(α化)=生の米に火が通ること。檜作進(1970)と農林水産省によると、老化は0℃付近で最も速く、−10〜−20℃と60℃以上ではほとんど起こらない。糊化は60℃付近から始まり、98℃以上で20〜30分あれば十分とされる。
何が起きているか
生のでんぷんが水と熱を受け、結晶の並びがほどけて水を抱え込み、粘りのある状態へ変わる現象です。この変化そのものが炊飯の本体で、吸水で米粒の内部まで水が届いていないと中心は糊化しきりません。でんぷんは水分30%以下では均一に糊化せず、胚乳のでんぷんが米のタンパク質に包まれている米では、さらに多くの水が要るとされています。
何によって変わるか
農林水産省は60℃付近で糊化が始まり、完全な糊化には98℃以上で約20分の加熱が要るとしています。檜作進は65℃では十数時間かかるが98℃なら20〜30分で足りると書いています。炊飯の加熱は温度上昇期が約10分、沸騰させる期が約5分、蒸し煮にする期が10〜15分、蒸らす期が約10分という区間に分かれます。この4つの区間は、どれか1つを延ばしても他の区間の不足を埋めません。
よくある勘違い
「糊化とは米が水を吸うこと」という言い換えは誤りです。吸うだけなら常温の吸水でも進み、熱がなければ結晶構造はほどけません。「沸騰すれば糊化は終わる」も同じで、実際には98℃以上を約20分保った先に完全な糊化があります。水が中心まで届かないまま加熱が終わると芯が残った状態になり、その部分は冷めてから硬くなるのも速いとされます。
台所での意味
水・温度・時間のどれが欠けても糊化は途中で止まるため、水をはかる量と浸す時間は加熱の前提として効いてきます。浸水は2時間で吸水が止まるや炊いている間は蓋を開けてはいけないといった説も、この3つのどれを守る話なのかで読み分けられます。芯が残ったときに疑う順番も、同じ3つで決まります。加熱そのものを強めるより、前の2つを整えるほうが確かめやすくなります。
解説動画(海外・英語): A Tasting of Culinary Science—Starch/The Culinary Institute of America
でんぷんの成り立ち: 動画は、植物が葉で光合成によって糖をつくり、それを根にでんぷんとして蓄えるところから始めます。料理する側はその性質を借りているのだ、という置き方です。でんぷんはブドウ糖がつながった高分子で、直鎖のアミロースと枝分かれしたアミロペクチンの2つの形があり、植物の組織の中では粒(顆粒)の形で蓄えられていると説明します。
粒が水を抱え込む: 水があるところで約80℃まで加熱すると、でんぷんの粒が水を吸って元の何倍にもふくらむ。動画はこれを糊化と呼びます。粒の中ででんぷん分子どうしを結んでいた水素結合が切れ、入ってきた水と新しい水素結合ができることで分子が離れ、粒が広がっていく、という順序で述べます。この膨らみが、後のとろみとゲルの出発点になります。
とろみが出る理由: ふくらんだ粒からは直鎖の分子が溶け出し、力(せん断)が加わると粒が壊れて中身が流れ出ます。動画は、粒がふくらむことと溶け出すことの両方でとろみがつくと整理します。粒と断片と溶け出した分子が絡み合った網が水分子と結びついて動きを鈍らせ、その網が丈夫なら水が動けなくなってゲルになる、と続けます。
冷めると結び直る: 冷えていくと分子の動きが遅くなって互いに近づき、時間とともにでんぷん同士の水素結合が結び直されて硬くなり、まとっていた水が押し出されてしみ出す——動画はこれを老化(β化)と呼びます。直鎖の分子は重なって結合をつくりやすいので老化しやすく、枝分かれした側は並びにくいので起きにくい、と対比します。
温め直すと戻る: ソースから水が出るのも、パンが日を追って硬くなるのも同じ変化だと動画は挙げます。再加熱すればでんぷん同士の結合が切れ、水がふたたび結び直すので硬さは戻る。ただし冷めればまた同じ変化が進むと断ります。糊化と老化が同じ水素結合の付け替えの表と裏である——この見方が、温め直すときに粒の中で何が起きているかを読む土台になります。