鉄のにおい
におい
鉄そのものは、常温ではにおいません。金属をさわった後に立つにおいは、皮膚の脂質が鉄イオンで分解されてできる物質のにおいだと報告されています。
どう見えるか・どう感じるか
血や古い硬貨を思わせる、金属的なにおいです。分析書には「金気臭」「鉄臭」と書かれることがありますが、指針5-2 が挙げる臭いの例の中には入っていません。湯に鼻を近づけたときより、手で湯をすくって触れた後に強く立つのが、ほかのにおいと違うところです。かけ湯で湯に触れた直後に気づくこともあり、湯そのものより自分の手のにおいとして届きます。
何がそうさせているか
においのもとは、湯ではなく人の肌の側にできます。Glindemann ら 2006 は金属に触れた手のにおいを調べ、皮膚の脂質が鉄イオンによって分解されてできる物質がにおいの実体だと報告しました。鉄は常温で気化しないので、鉄の分子が鼻に届いているのではないという筋道になります。湯の中に浮かぶ湯の花のように目で追えるものとは、道筋がまったく違います。
出やすい泉質
含鉄泉で、療養泉の限界値は総鉄(二価と三価の合計)20mg/kgです。地下では二価の鉄として溶けていて、この形の鉄が肌の上で反応します。湯口に鉄の赤い付着が出ている湯では、その付着物の側にも土に似たにおいがあり、湯のにおいと混ざって記録されます。掲示が含鉄泉でなくても鉄の数値が小さくない湯はあるので、泉質名より成分の欄を見ることになります。
時間と空気でどう変わるか
空気に触れると二価の鉄は酸化されて三価に変わり、水に溶けない水酸化鉄の粒になって沈みます。この段階まで進んだ湯では、肌に触れて立つにおいは弱まり、代わりに赤褐色のにごりが目に見えてきます。においが強いのは湧きたてに近い湯の側で、貯湯槽にためた湯や配管の長い湯では引いていきます。におうかどうかは、鉄の量より鉄の形の問題です。
どこまで確かめられているか
この筋道は、実験に支えられています。Glindemann ら 2006(Angewandte Chemie International Edition、DOI 10.1002/anie.200602100)は、においの成分を機器で調べ、鉄イオンと皮膚の脂質から再現しました。分析書の鉄の数値から、においの強さは決まりません。含鉄泉の掲示がない湯でも気づくことがあり、記録に残るかどうかも分析した人によります。