硫化水素臭
におい
硫黄そのものは、常温ではにおいません。浴室で鼻に届くのは硫化水素というガスのにおいで、分析書の臭いの欄にはその名前が書かれます。
どう見えるか・どう感じるか
「卵の腐ったようなにおい」と言い表されるにおいです。分析書では知覚的試験の欄に臭いの種類が語で書かれ、鉱泉分析法指針(平成26年改訂)5-2 が挙げる例のひとつがこの語です。湯船に近づく前、脱衣所や浴室の入口で先に届くことがあります。濃さを表す数値は臭いの欄に出ませんので、強い弱いは書き手の言葉づかいとして残るだけです。色の記録と同じ欄に並ぶため、無色澄明の湯にこの語だけが付くこともあります。
何がそうさせているか
におうのは硫黄ではなく、硫化水素というガスです。硫黄の単体は常温で気化せず、鼻には届きません。湯に溶けた硫黄は水素イオンの多さによって遊離硫化水素と硫化水素イオンに分かれ、気体として空気へ出られるのは前者だけです。指針は硫黄泉の総硫黄を、この二つにチオ硫酸イオンを加えた合計として扱うので、総硫黄の数値が大きいほど強くにおう、とは限りません。数値と鼻は別の話になります。
出やすい泉質
硫黄泉で、療養泉の限界値は総硫黄2mg/kgです。硫黄が主に遊離硫化水素の形で入っているものには硫化水素型と付記され、その判定は遊離硫化水素のモル濃度が、硫化水素イオンとチオ硫酸イオンの合計を上回るかで決まります。掲示の泉質名にこの付記があれば、におう側の硫黄が多い湯だと読めます。酸の強い湯と重なる場合は亜硫酸臭の側へ寄り、同じ硫黄でも記録される語が入れ替わります。
時間と空気でどう変わるか
空気に触れるほど弱まります。遊離硫化水素は酸化されて硫黄の粒や硫酸イオンへ移っていくため、採取から時間がたつほどにおいは薄れ、代わりに湯が乳白色のにごりの側へ動きます。指針は色や臭いが時間とともに変わるとして、採取からの経過時間を分析書に併記させます。貯湯槽にためた湯や配管の長い湯では、浴槽へ届くまでにこの変化が進むので、掲示の語と鼻の印象はずれて当たり前になります。
どこまで確かめられているか
分析書に残るのは語だけですが、ガスとしての量は別に測れます。環境省は温泉施設での硫化水素中毒を受けて対策の通知を出し、滞留しやすい場所の換気と濃度の把握を求めました。湯気抜きと換気が置かれている理由はここにあり、囲いのある露天や小屋、洗い場の低い位置は溜まりやすい場所です。低い濃度では鼻が慣れて感じ取れなくなることも知られており、においが消えたことは安全の目安になりません。