攻略 | オトモネイチャー

締める・冷やす・運ぶの基本と、持ち帰らない魚の放し方。

魚を取り込んだら、持ち帰るか放すかを先に決めます。持ち帰る魚はすぐ冷やし、放す魚は水から出す時間を短く抑えます。手当ての向きが逆なので、迷っている間に両方の身と体力が落ちます。クーラーボックスに氷と海水を用意し、タモ網(ランディングネット)とフィッシュグリップ・プライヤーを手の届く所に置くまでが、竿を出す前の準備です。

クーラーボックス写真: Alinstpete / CC BY-SA 4.0

釣れた直後の魚は、取り込みの間に激しく暴れて筋肉に乳酸がたまり、体温も上がります。乳酸で筋肉のpHが下がると保水性と食感が落ち、体温が高いままだと身が白く濁る「焼け」が起きます(おさかなの生物学)。暴れた時間が長いほど、うま味の元になるATPも減ります(釣りって、学べる。)。締めるとは、暴れを止める・血を抜く・温度を下げるの3つを済ませることです。

堤防でアジやイワシが数釣れたときは、氷と海水で作った塩氷に入れる氷締めで足ります。刺身にする魚は、エラの下と尾びれの付け根を刃物で切り、ロッドホルダーとバッカンのバッカンに汲んだ海水へ浸けて血を抜きます(釣りって、学べる。)。切り口を水に浸けないと傷口で血が固まるので、水中で魚を軽く振ります。内臓を出すのは帰ってからで、釣り場では血抜きまでに留めます。

ロッドホルダーとバッカン写真: paulbr75 / Pixabay Content License

冷やす液体は、氷に現地の海水を混ぜた塩氷、凍らせたペットボトルで冷やした海水、真水の氷水の3つです。冷海水は身の色が残りやすく、塩氷は作るのが簡単で一気に冷えます(おさかなの生物学)。真水は浸透圧で身が水を吸うため、袋に入れて氷に触れさせません(釣りって、学べる。)。氷だけのクーラーに魚を放り込む形は、液体に浸けるより冷えが遅く、乾きと氷焼けも起きます(おさかなの生物学)。氷水で締めたチリマアジは、空気中で窒息させたものより当日の筋肉pHが高く、冷蔵中の腐敗の指標の上がり方も遅く、官能評価も良い結果でした(Lyuほか、2015)。ヨーロッパスズキでも、氷水の群が死んだ時点のpHとATPが最も高く、完全な死後硬直が遅れ、冷蔵での日持ちは14日でした(Zampacavalloほか、2015)。氷水そのものも魚には負担で、ニジマスでは電気で気絶させた群より筋肉pHが低く、ストレスの指標も高く出ました(Bermejo-Pozaほか、2021)。釣り場で選べるのは氷水までなので、冷やす速さを優先します。

帰る前に塩氷の水を抜き、魚は丈夫な袋に入れるか新聞紙で包みます(釣りって、学べる。)。芯まで冷えたあとは5〜10℃で保つほうがATPが残りやすく、冷やしすぎは逆に働きます(おさかなの生物学)。冷えた海水に浸け続けたタイセイヨウサケは、氷の上で保存したものより保水性が高い一方、身が柔らかく細菌も増えやすかった結果が出ています(Chanほか、2020)。帰宅後は水道水で魚をよく洗い、内臓は清潔な場所で出します(おさかなの生物学)。

持ち帰った魚の食中毒は、温度とエラ・内臓の始末で分かれます。ヒスタミンを作る菌はエラと消化管に多く、常温に置くと増え、できたヒスタミンは加熱しても減りません(消費者庁)。症状は食後1時間以内の顔の紅潮・頭痛・じんましん・発熱です。アニサキスの幼虫は長さ2〜3cmの白い糸状で、魚が死んで時間がたつと内臓から筋肉へ移ります(厚生労働省)。酢・塩漬け・醤油・わさびでは死なないので、生で食べる魚は幼虫を目で見て取り除きます。

持ち帰らない魚は、空気にさらす時間を60秒未満に抑えるのが理想とされます(米国海洋大気庁)。濡れた手で扱い、体の長さに沿って重さを支え、口だけで吊りません。網は、濡れた結び目の無い網かゴム製の網が、目・ヒレ・うろこ・粘膜を傷つけにくいとされます。飲み込まれて簡単に外せないハリは、糸をハリの近くで切ります。疲れた魚は流れに頭を向け、泳ぎ出すまで支えます。ニジマス238尾をY字の迷路で調べた研究では、空気にさらした群の短期記憶が3〜4時間後に落ち、1週間後と1か月後には差が消えていました(Flinkほか、2025)。

失敗しやすいのは、水に生かしておけば魚が回復すると考えることです。ストレスの除去には半日から3日かかり、ストリンガーに吊ると口と顎に負担が増えます(おさかなの生物学)。水面につないだままの魚は、表層の水温にさらされて傷みます(Fougere Fishing)。釣れるたびにクーラーを開けると保冷力も落ちるので、当たりが途切れた時にまとめて締めます(釣りって、学べる。)。うまく冷やせた魚は、身の透明感が残り、水っぽい食感になりません。

出典

  1. 動画 釣りって、学べる。 【魚の持ち帰り方】どう持ち帰る?知っておきたい3つのポイント
  2. 動画 おさかなの生物学 【保存版】釣った魚は鬼締めが正解。魚の持ち帰り方を科学で解説
  3. 動画・英語 Fougere Fishing Keeping your Catch Fresh
  4. 公的機関 厚生労働省 アニサキス食中毒に関するQ&A
  5. 公的機関 消費者庁 ヒスタミン食中毒
  6. 公的機関・英語 NOAA Fisheries Catch and Release Fishing Best Practices
  7. 論文・英語 Lyu F, Huang RJ, Liu L, Zhou X, Ding YT(2015) Effect of slaughter methods on the quality of Chilean jack mackerel (Trachurus murphyi) during refrigerated storage
  8. 論文・英語 Zampacavallo G, Parisi G, Mecatti M, Lupi P, Giorgi G, Poli BM(2015) Evaluation of different methods of stunning/killing sea bass (Dicentrarchus labrax) by tissue stress/quality indicators
  9. 論文・英語 Bermejo-Poza R ほか(2021) Effect of ice stunning versus electronarcosis on stress response and flesh quality of rainbow trout
  10. 論文・英語 Chan SS, Roth B, Jessen F, Løvdal T, Jakobsen AN, Lerfall J(2020) A comparative study of Atlantic salmon chilled in refrigerated seawater versus on ice: from whole fish to cold-smoked fillets
  11. 論文・英語 Flink H, Berge A, Leggieri F, Kolm N, Tibblin P(2025) Transient cognitive impacts of oxygen deprivation caused by catch-and-release angling