締める・冷やす・運ぶの基本と、持ち帰らない魚の放し方。
魚を取り込んだら、持ち帰るか放すかを先に決めます。持ち帰る魚はすぐ冷やし、放す魚は水から出す時間を短く抑えます。手当ての向きが逆なので、迷っている間に両方の身と体力が落ちます。クーラーボックスに氷と海水を用意し、タモ網(ランディングネット)とフィッシュグリップ・プライヤーを手の届く所に置くまでが、竿を出す前の準備です。
釣れた直後の魚は、取り込みの間に激しく暴れて筋肉に乳酸がたまり、体温も上がります。乳酸で筋肉のpHが下がると保水性と食感が落ち、体温が高いままだと身が白く濁る「焼け」が起きます(おさかなの生物学)。暴れた時間が長いほど、うま味の元になるATPも減ります(釣りって、学べる。)。締めるとは、暴れを止める・血を抜く・温度を下げるの3つを済ませることです。
堤防でアジやイワシが数釣れたときは、氷と海水で作った塩氷に入れる氷締めで足ります。刺身にする魚は、エラの下と尾びれの付け根を刃物で切り、ロッドホルダーとバッカンのバッカンに汲んだ海水へ浸けて血を抜きます(釣りって、学べる。)。切り口を水に浸けないと傷口で血が固まるので、水中で魚を軽く振ります。内臓を出すのは帰ってからで、釣り場では血抜きまでに留めます。
冷やす液体は、氷に現地の海水を混ぜた塩氷、凍らせたペットボトルで冷やした海水、真水の氷水の3つです。冷海水は身の色が残りやすく、塩氷は作るのが簡単で一気に冷えます(おさかなの生物学)。真水は浸透圧で身が水を吸うため、袋に入れて氷に触れさせません(釣りって、学べる。)。氷だけのクーラーに魚を放り込む形は、液体に浸けるより冷えが遅く、乾きと氷焼けも起きます(おさかなの生物学)。氷水で締めたチリマアジは、空気中で窒息させたものより当日の筋肉pHが高く、冷蔵中の腐敗の指標の上がり方も遅く、官能評価も良い結果でした(Lyuほか、2015)。ヨーロッパスズキでも、氷水の群が死んだ時点のpHとATPが最も高く、完全な死後硬直が遅れ、冷蔵での日持ちは14日でした(Zampacavalloほか、2015)。氷水そのものも魚には負担で、ニジマスでは電気で気絶させた群より筋肉pHが低く、ストレスの指標も高く出ました(Bermejo-Pozaほか、2021)。釣り場で選べるのは氷水までなので、冷やす速さを優先します。
帰る前に塩氷の水を抜き、魚は丈夫な袋に入れるか新聞紙で包みます(釣りって、学べる。)。芯まで冷えたあとは5〜10℃で保つほうがATPが残りやすく、冷やしすぎは逆に働きます(おさかなの生物学)。冷えた海水に浸け続けたタイセイヨウサケは、氷の上で保存したものより保水性が高い一方、身が柔らかく細菌も増えやすかった結果が出ています(Chanほか、2020)。帰宅後は水道水で魚をよく洗い、内臓は清潔な場所で出します(おさかなの生物学)。
持ち帰った魚の食中毒は、温度とエラ・内臓の始末で分かれます。ヒスタミンを作る菌はエラと消化管に多く、常温に置くと増え、できたヒスタミンは加熱しても減りません(消費者庁)。症状は食後1時間以内の顔の紅潮・頭痛・じんましん・発熱です。アニサキスの幼虫は長さ2〜3cmの白い糸状で、魚が死んで時間がたつと内臓から筋肉へ移ります(厚生労働省)。酢・塩漬け・醤油・わさびでは死なないので、生で食べる魚は幼虫を目で見て取り除きます。
持ち帰らない魚は、空気にさらす時間を60秒未満に抑えるのが理想とされます(米国海洋大気庁)。濡れた手で扱い、体の長さに沿って重さを支え、口だけで吊りません。網は、濡れた結び目の無い網かゴム製の網が、目・ヒレ・うろこ・粘膜を傷つけにくいとされます。飲み込まれて簡単に外せないハリは、糸をハリの近くで切ります。疲れた魚は流れに頭を向け、泳ぎ出すまで支えます。ニジマス238尾をY字の迷路で調べた研究では、空気にさらした群の短期記憶が3〜4時間後に落ち、1週間後と1か月後には差が消えていました(Flinkほか、2025)。
失敗しやすいのは、水に生かしておけば魚が回復すると考えることです。ストレスの除去には半日から3日かかり、ストリンガーに吊ると口と顎に負担が増えます(おさかなの生物学)。水面につないだままの魚は、表層の水温にさらされて傷みます(Fougere Fishing)。釣れるたびにクーラーを開けると保冷力も落ちるので、当たりが途切れた時にまとめて締めます(釣りって、学べる。)。うまく冷やせた魚は、身の透明感が残り、水っぽい食感になりません。
出典
- 動画 釣りって、学べる。 【魚の持ち帰り方】どう持ち帰る?知っておきたい3つのポイント
- 動画 おさかなの生物学 【保存版】釣った魚は鬼締めが正解。魚の持ち帰り方を科学で解説
- 動画・英語 Fougere Fishing Keeping your Catch Fresh
- 公的機関 厚生労働省 アニサキス食中毒に関するQ&A
- 公的機関 消費者庁 ヒスタミン食中毒
- 公的機関・英語 NOAA Fisheries Catch and Release Fishing Best Practices
- 論文・英語 Lyu F, Huang RJ, Liu L, Zhou X, Ding YT(2015) Effect of slaughter methods on the quality of Chilean jack mackerel (Trachurus murphyi) during refrigerated storage
- 論文・英語 Zampacavallo G, Parisi G, Mecatti M, Lupi P, Giorgi G, Poli BM(2015) Evaluation of different methods of stunning/killing sea bass (Dicentrarchus labrax) by tissue stress/quality indicators
- 論文・英語 Bermejo-Poza R ほか(2021) Effect of ice stunning versus electronarcosis on stress response and flesh quality of rainbow trout
- 論文・英語 Chan SS, Roth B, Jessen F, Løvdal T, Jakobsen AN, Lerfall J(2020) A comparative study of Atlantic salmon chilled in refrigerated seawater versus on ice: from whole fish to cold-smoked fillets
- 論文・英語 Flink H, Berge A, Leggieri F, Kolm N, Tibblin P(2025) Transient cognitive impacts of oxygen deprivation caused by catch-and-release angling



