お金や約束で自分を縛る
決め方
できなかったら損する仕掛けを、始める前に作っておく
どんな技?
始める前に、できなかったら損が出る形を自分で仕掛けます。守れなければ一定額を渡すと身内に取り決める、期日に成果物を見せる約束を先に入れる、といった作り方です。損は言うだけの側ではなく、取り決めの側に置きます。仕掛けは始める前に作らないと意味がなく、後から自分で外せる形では残りません。手をつけてから思い出して足す形も、ほとんど働きません。
なぜ効くのか
先の自分が今の自分と同じ判断をしないことを前提に、選べる手を先に減らしておくしくみです。やる気で押し切るのではなく、やらない側の代価を上げる方向に環境を動かします。学習に当てはめた検証はほとんど無いので、しくみの説明までで止めます。意志ではなく場面のほうを動かす点では、先に環境を変えておくと同じ側の手当てです。
やり方
守る対象を一つの行動に絞り、期限と、守れなかったときに起きることを紙に書きます。相手役を一人立てて、確認する日も先に決めます。金銭を賭けない形なら、成果物を見せる約束でも同じ骨組みになります。仕掛けの期限は数週間で切り、切れたあとも続くかどうかを見ます。期日の側は自分で締切を刻むと組むと具体になります。
はまりどころ
貯蓄や禁煙のように一度守れば結果が確定する行動で効いた報告が中心で、毎日くり返す行動では仕掛けが終わると戻る報告が多いです。勉強に使って成績が上がったかは調べられていません。金銭を賭ける形は損が出る仕掛けそのものなので、生活に響く額にはしません。目標を人に言うのように宣言だけで済ませると、代価が生まれません。
確かめられ方
Bryan らが2010年にまとめた総説が、コミットメント装置を扱った実地実験を整理しています。Ashraf らの2006年の貯蓄商品ではフィリピンの預金者、Giné らの2010年の禁煙では預託契約を結んだ喫煙者が対象で、どちらもはっきりした差が出ました。運動のように毎日くり返す行動では介入が終わると戻る報告が多く、学習に応用した検証は見当たりません。
解説動画(海外・英語): Ulysses pact | Commitment Device - How to use a Greek Hero's Strategy!/Sharp Sapiens
マストに縛らせる: 動画はセイレーンの歌を聞きたいオデュッセウス(ユリシーズ)の話から入ります。歌に狂った船乗りが海へ飛び込んで死ぬと知ったうえで、彼は自分をマストに縛らせ、船員の耳には蝋を詰めさせました。ほどけと叫んでも従うなと先に命じてあります。動画はこの取り決めをユリシーズ契約と呼び、今の心理学ではコミットメント装置と呼ばれると続けます。
今の選択で先を縛る: 定義はこう置かれます。今する選択で、将来の自分の行動を決めてしまうこと。良い習慣を楽にするより悪いほうを難しくするほうが効く場面がある、という言い方です。例に挙がるのは、まとめ買いをやめて小分けで買う、減量中の選手が計量前の一週間は財布を家に置いて出る——手の届く範囲そのものを先に狭める形でした。
外に置くと外せない: 人や物を挟む形も並びます。相手と曜日を決めて一緒に通う、ヨガの枠を先に払っておく、夜十時に回線の電源が落ちるタイマーを噛ませる、賭け事なら自分を出入り禁止の名簿に載せてもらう。動画が作ろうとしているのは抜けるのに手間と費用がかかる状態で、先に環境を変えておくと同じ側の手当てです。
服を箱にしまう: 締切に追われたユーゴーの話も出ます。一年書かずに過ごし、期限を半年足らずに切り直された彼は、服を全部つづらに入れ、助手に鍵をかけさせました。外へ出られる服が無くなり、秋から冬を書斎で書き続け、本は二週間早く世に出たと語ります。閉じたのは意志ではなく外出という選択肢のほうでした。
抜ける側を重くする: 締めは組み方の話です。良い習慣から抜けるほうが始めるより手間になるように、やること自体の形を作り替える。誘惑が来る前、やる気が残っているうちに組んでおくのが順番だと述べます。この項目でいえば、宣言するだけの目標を人に言うと分かれるのはここで、外れたときの手間が無ければ仕掛けになりません。