耳で読む

本以外を読む

全体の理解は読みと変わらない。推論を問われると読みが有利

どんな技?

同じ内容を、文字で読む代わりに音声で聞きます。移動中や家事の合間を使えるので、読む時間が取れない場面の代わりになります。ただし全部を耳に置き換えるのではなく、通しでつかむ回は聞いて、考えながら追う回は文字で読むという分け方にします。どちらが上かではなく、材料と問われ方で選びます。音声を選ぶなら、止めて戻せるものにしておきます。

なぜ効くのか

聞くか読むかで入口は耳と目に分かれますが、言葉の意味を取る過程はそこから先で共通だと考えられています。差が出やすいのは戻り方です。文字ならすぐ前の行へ目を戻せるのに対し、音声は流れ続けるため聞いた言葉は作業記憶の上にしか残りません。前後をつないで書かれていないことを補う推論には、その読み返しが効きます。耳では戻す操作に手間がかかるので、戻らずに進んでしまいがちです。

やり方

まず細かい理解を問われない材料から始めます。一度読んだ本の再読や、話の流れを追えば済む内容が向いています。速さは等倍のまま10分ほど聞き、内容を口で言い直せるか試します。込み入った箇所に来たら止めて、同じ場所を文字で読み直します。覚えておきたい要点は耳のまま済ませず、後で書き出すところまでやります。音だけで済ませる回と文字に戻る回を、先に決めておくと迷いません。

はまりどころ

推論を問われる読み方では、聞くほうが不利だと報告されています。要点を覚えていたからといって読みと同じだと決めないほうが安全です。自分のペースで進められる条件でも、読みがやや有利でした。物語なら同じといった題材での言い切りは研究に出ていません。速さを上げて時間を縮める話は倍速で聴くの条件と重なるので、そちらの上限も合わせて見ることになります。

確かめられ方

Clinton-Lisell 2022 のメタ分析は46研究・4,687人をまとめ、読みと聴きの理解に全体としての差は出なかったと報告しています。差が出たのは推論を問う問題と、自分のペースで進められる条件で、どちらも読みが有利でした。Singh と Alexander 2022 は学年が下の子で音声が有利な報告も挙げており、年長の読者を対象に直接比べた研究は足りません。

解説動画(海外・英語): Is Listening to Audiobooks Cheating?/David Pakman Show

ずるいの中身: 音声で本を聞くのはずるいのか、という問いから始まる対談です。ずるいとは、本来かけるはずの手間を抜いたまま、その先にあるものを受け取ることだと整理されます。聞くほうが楽に感じられるのに、本を読んだという扱いは仲間内で同じように得られる——引っかかりの正体はそこだと述べます。

読みと聞きの重なり: 文字を音へ直す作業が身についた大人の読み手なら、紙で読むことと聞くことは大きく重なると言います。同じ働きではないものの、読むときの言葉の処理の多くは会話で使う処理に乗っているという説明です。ただしこれは一つずつ実験で確かめた話ではなく、読みについて分かっていることからの推し量りだと断りが入ります。

語り手の抑揚: 音声には読み手の抑揚が付き、それ自体が意味を運びます。同じ一言でも皮肉か本心かは言い方で決まり、紙の上ではそれが見えません。抑揚は主語や動詞の切り分けにも関わると述べます。ただし理解の差になる場面がどれだけあるかは分かっておらず、言葉の隔たった古い戯曲では助けが大きく、今どきの娯楽小説ではさほど変わらないと見ます。

戻れるかどうか: もう一つの違いは、進む速さを自分で握れるかです。音声も止めて戻せますが、実際に戻す人はぐっと減ると言います。読んでいる最中の眼の動きのうち1割から1割5分ほどは前へ戻る動きで、本人は気づいていません(読み返し)。新しい情報の詰まった教科書を耳で追うのは難しく、削られるのは後の記憶よりその場の理解だと述べます。

速いのは読むほう: では得な点はどこか。慣れた読み手は話す速さより速く読めるので、聞くほうが速いわけではないと返します。残るのは車の中や家事の合間でも進められること、つまり他のことと重ねやすい点だけで、ずるいという感じもそこから来る周りの目の話だと結びます。