契約書と規約の読み方
本以外を読む
読みにくさの正体は内容ではなく、文の入れ子
どんな技?
読めない一文に当たったら、内容を疑う前に文の形を見ます。主語と述語の間に長い定義やかっこ書きが挟まっている所を探し、その挟まりを外へ出して短い文に割ると、書かれている条件が並びます。「ただし」「除く」の位置にも印を付け、例外だけを別に書き出すと全体が見えます。自分の理解力の問題だと決める前に、書き方の側を疑います。
なぜ効くのか
読みにくさの多くは、専門の概念よりも書き方から来ます。文の中央に別の文が入れ込まれると、外側の主語を保ったまま内側を処理することになり、作業記憶の負担が上がります。同じ行で読み返しが増えるのは、この入れ子が原因のことがあります。専門用語の意味が分かっても、入れ子のままでは読み通せません。挟まりを外に出すと、一度に持つ量が減ります。
やり方
一文が3行を超えたら区切ります。かっこと「〜する場合」を外に出し、主語・条件・結果の3つに分けて書き直します。誰の義務か、いつからいつまでか、何が除かれるかを並べると抜けが見えます。書き直した文は自分の言葉で残します。見出しを先に拾うのは目次から地図を作ると同じです。1条項に数分かけ、金額と期間と解約の条は丁寧に見ます。
はまりどころ
読めたことと、法的に有効かどうかの判断は別です。ここでできるのは内容を取り出すところまでで、効力の判断は専門家に相談する範囲です。文を割って条件を並べても、書かれていない前提や別紙への参照までは見えません。日本語の契約書で同じだけ効くかは確かめられていません。急ぐ場面ほどいったん持ち帰って読むことにして、その場では署名しません。
確かめられ方
Martínez ら 2022 は、法律文の難しさが専門概念よりも文の中央への入れ込みという書き方に由来すると報告しました。同じ著者らの 2023 年の研究では、弁護士も平易に書き直した契約文のほうを正確に理解し、好みました。材料は英語の法律文で、読み手側の手順を比べた実験ではありません。
解説動画(海外・英語): Mr Richard Bates: Can we cure lawyers of legalese?/Legal English
別の言語のよう: 話し手は契約書を書く側の弁護士です。法律の文は日常の言葉とは別の下位の言語になっていると切り出し、それを見分ける目印を並べます。本当に要る術語はそれほど多くないと述べ、挙がるのは普通の語に変わった意味を与えること、句読点を置かないこと、そして見出しも付けず一文に考えを詰め込むことです。
二重三重の語: 同じ意味の語を二つ、できれば三つ重ねる癖も挙がります。法がたどってきた歴史のなかで英語とフランス語とラテン語の語をまとめて拾おうとした名残で、その理由はとうに消えていると述べます。受け身の古い語順や独特の代名詞も同じで、読みやすさを助けてはいないという見方です。読む側から見れば、一語で足りるところに二語が置かれているだけということになります。
一文に詰める: なぜそう書くのかも話します。網羅を求めて読みやすさを犠牲にする癖があり、伝えたい考えの全部を一文に収めなければならないと思い込む、と述べます。だから若手にはひとつの考えにひとつの文、足りなければ二文を使えと言い続けているそうです。宛先の取り違えも挙げ、依頼者ではなくいつか読むかもしれない裁判官に向けて書いてしまうと言います。
保険の約款で: 後半は保険の約款です。例外と留保だらけで結局は払わないためにあると見られている、という受け止めから始まり、平易な言葉で書くよう求める決まりが米国の多くの州や欧州の規制にあると挙げます。実際に取られている手は、文を短くする、例外をまとめて置く、私たち・あなたで書く、金額や対象を別表に出すことです。
読む側の足場: 終わりに、書き手はまず自分が何を言いたいのかを分かることから始めるべきで、そこを飛ばせば読み手に届くはずがないと結びます。読む側にとっては、難しさの出どころが書き方の側にあるという話になります。定義した語の中身が見当たらないのも、別の契約から写したまま直していないか書き忘れたせいだと言うので、読めないのを自分のせいにする前の足場になります。