線香の煙が途中で乱れる
部屋と空気
まっすぐ上る煙が急にほどける境目
何が起きている?
細い煙のすじがまっすぐ立ちのぼり、10〜30センチほどのところで急にほどけて、渦を巻きながら白く広がります。ほどける高さはほぼ一定で、人が横を通ったときだけ低くなり、しばらくすると元に戻ります。風のない部屋ほど境目がはっきりし、下は糸のよう、上は雲のように見えます。
なぜそうなるか
温まった空気は周りより軽く、浮力が上へ押し続けるので、煙は上るほど速くなります。速くなると、流れが持つ勢いと、粘りが引き止める力との比が大きくなり、小さなゆらぎを粘りが押さえきれなくなります。押さえが外れると境目で波が育ち、巻き上がって渦になり、周りの空気と混ざって白く広がります。ここが層流と乱流の移り変わりで、どの高さで変わるかを前もって正確に言い当てることはいまも完全にはできていません。
確かめ方
火を使わなくても、湯気で同じものが見られます。熱いお茶や風呂の湯気を横から見ると、まっすぐな部分とほどける部分の境目が見つかります。手のひらを20センチほど上にかざすと流れがさえぎられ、ほどける位置が下がります。湯気は熱いので、顔を近づけすぎないようにしてください。
つながる現象
速さの違う空気が隣り合う境目では、わずかなくぼみが引き伸ばされ、巻き上がって渦へと育ちます。この育ち方はケルビン・ヘルムホルツ不安定と呼ばれ、雲の縁に渦が並ぶときも中身は同じです。台所の湯気でも高さの決まった同じ境目ができ、煙と同じ場所ですじが束をほどきます。そろった流れが乱れへ移る境目は、身の回りの流れのほとんどでよく似た顔をしています。
解説動画(海外・英語): Why Incense Smoke Suddenly Turns Turbulent/Physics Parallax
糸がほどける瞬間: 静かな部屋で線香に火をつけると、先端の近くの煙は定規で引いたような一本の糸で、ほとんど動かない。ところが10センチや20センチほど上で、ふちに小さな波が立ち、締まって巻き込み、一秒に満たないうちに柱全体がほどける。滑らかから無秩序への移り変わりは、指の太さより薄い範囲で終わってしまう。
勢いと粘りの綱引き: 動画は、動く流体の中では二つの働きが競っていると説明する。慣性は動いている空気が今の向きを保とうとする性質で、小さなずれを先へ運び、育てる側に回る。粘りは隣り合う部分どうしの内部の摩擦で、速さの差をならしてゆらぎが育つ前に消す。動画はこれを流れの自制心と呼ぶ。どちらが勝つかで、滑らかなままか乱れるかが決まる。
レイノルズの染料の実験: 1880年代、技術者オズボーン・レイノルズは長いガラス管に水を流し、中心へ色のついた染料を細く注いだ。遅いうちは染料は一本のきれいな糸のままで広がらない。速さを上げると線が揺らぎ、やがて管いっぱいに散った。勢いと粘りのどちらが強いかを表すのがレイノルズ数で、管の流れでは2300あたりから移り変わりが始まる。ただし条件と乱れ次第で前後する。
線香は管ではない: 線香の煙は管の中ではなく、周りより軽い温かい気体が立ちのぼる柱。先端の近くは遅くて細いので粘りがゆらぎを消せる。上るほど浮力が加速させ、周りの空気を巻き込みながら太くなる。上る気体とほぼ静止した空気のあいだにできる速さの差の層が不安定になり、かすかな気流や部屋の振動をきっかけに境目が波打ち、巻き上がって渦になる(ケルビン・ヘルムホルツ不安定の仲間)。
渦の階層と、解けていない問題: 渦どうしは引き伸ばし合い、大きな渦の中に小さな渦、その中にさらに小さな渦と、いくつもの大きさが同時に重なる。1941年にコルモゴロフがこの受け渡しを統計で言い表し、風洞でも海流でも大気でも同じ形が見つかった。動きは最後に粘りの効く細かさで熱になる。それでも流れを記すナビエ–ストークス方程式は三次元で解が滑らかなままかが未証明で、100万ドルの懸賞問題として残っている。