鉄(Fe)
植物に効く数字
効く相手: 植物
魚の餌からは、ほとんど入りません。この系で先に足りなくなる養分で、キレート剤の種類が pH で効き方を変えます。
何を表す数字か
株が葉緑素をつくるのに要る微量養分です。水の中では三価の鉄がすぐ水酸化物になって沈むので、溶けた形で保つにはキレート剤で包んだものを使います。餌には魚のための鉄が入っていますが、市販の餌の量では株の要る分に届きません(Kasozi ら 2019)。餌を増やしても追いつかない側にあり、外から足す前提で組みます(→肥料は魚のフンだけで足りる?)。
目安の範囲
NMSU Extension Circular 680 は、キレート鉄を 2 mg/L、3 週間ごとを目安に足すと書き、DTPA でキレートしたものを挙げています。溶けている鉄を家庭で測るのは難しく、実際には新しい葉の葉脈間が黄色くなる形で読むことになります(→新芽だけが黄色く、葉脈が緑に残る)。間隔は回数ではなく葉の出かたで決めます。
動くと何が起きるか
薄くなると古い葉ではなく新しい葉から色が抜けます——鉄は株の中を移りにくいためです。魚と硝化菌の側は、この濃度では動きません。効き方はキレート剤の種類で変わり、EDDHA は石灰質の土でも安定と書かれる一方、EDTA はそこまでの安定さを持ちません(Suzuki ら 2021)。pH を上げた水では、同じ量でも持ちが変わります。
測りかた
溶けている鉄は、家庭向けの試験キットの多くが対応していません(→水質試験キット)。測るなら外部の水質分析に出すことになり、ふだんは新芽の色の出かたで判断します。配管や培地に付いた赤い沈着は、溶けている量ではなく沈んだ量です。足したあとは数日おいて、新しく開いた葉どうしを見比べます。
誰がどう測った値か
2 mg/L・3 週間ごとは NMSU Extension Circular 680 の普及資料の記述で、試験の測定値ではありません。餌の鉄が足りないという整理は Kasozi ら 2019 の総説(Aquaculture Reports)で、魚種や水の条件をまたいでまとめたものです。総説は一次研究ではなく、自分の系の適量までは決まりません。
解説動画: Iron in Aquaponics - Part 1/ZipGrow
溶ける鉄と沈む鉄: 動画は、水の中の鉄を二つの形に分けて話します。二価の鉄は溶けている形、三価の鉄は溶けない形で、水温やpHの動きに合わせて行ったり来たりしている。溶けている側は酸素の少ない条件と低いpHに寄り、酸素があってpHが高いほど、溶けない側に傾く。鉄がどれだけ入っているかより、いまどちらの形でいるかが先に決まる、という切り出し方です。
系の側が不利: そのうえで動画は、アクアポニックスの系はふつう酸素をよく含み、pHも比較的高いところで回ると指摘します。二つを重ねると、系の中の鉄の多くは株が取れない側に寄っていることになる。もっとも、これは自然界でも珍しいことではなく、植物のほうも根から水素イオンを出して根のまわりを酸性にするなど、自力で鉄を取りにいく手を持っていると話します。
キレートとは: キレートとは、溶けない三価の鉄にアミノ酸のような分子をくっつけて、溶けたまま水の中を運べるようにすることだと動画は説明します。植物自身が根から出すファイトシデロフォアも同じ働きをする分子で、人工のキレート剤はそれを外から補うもの。酸素があってpHが高い水でも、鉄を根の届くところまで運ぶための道具だと述べます。
三つのキレート剤: 動画は、外から足すときの三つを比べます。EDTAはpH6.3までしか安定せず、毒性があって除草剤にも使われるので勧めない。DTPAはpH7.5まで効き、自分の系で使っている赤茶色の粉はこれだと言う。EDDHAはpH9まで持つので、鉄が薄くなっている始めたての系にはこれを使うのがよい、と結びます。
量ではなく形: 最後に動画は、鉄はありふれた元素なのに系では足りなくなる、という初めの言葉へ戻ります。錆を放り込んでも溶けはしないと念を押し、鉄は量の問題ではなく、溶けた形で保てているかの問題だと整理する。どのキレート剤を選ぶかも、その水がpHのどのあたりで動いているかで決まる、という順番になります。