温泉権

お金と地域

湯を使う権利は、温泉法には書かれていません。源泉から湧く湯を誰が使えるかは慣習の側で扱われてきた領域で、民法が並べる物権の列にも温泉権という名はありません。

何を定めた決まりか

温泉法が定めているのは、掘削自噴や動力揚湯といった湧かせ方に伴う掘削や採取、利用の手続きで、湧いた湯を誰が使えるかという私法上の権利は書かれていません。民法が並べる物権にもその名は無く、湯を使う権利は土地の慣習として積み上がってきた扱いの側にあります。長友昭 2022 は、慣習上の物権としての温泉権が成立するかを争った裁判例を、物権法定主義の視点から整理しています。

現地のどこに現れるか

道端や川沿いを走る引湯管と、共同浴場の入口に出た管理者の名が手がかりです。組合、財産区、区といった名が並ぶのは、湯が施設ではなく地域の側で管理されてきたことの跡です。温泉の成分等の掲示を宿ごとに見比べると離れた施設に同じ源泉名が出ることがあり、一つの源泉を分けて配る分湯や集中管理の形がそこに見えます。分湯を受ける側の施設では、源泉の名と湯を管理する者の名が別に書かれることもあります。

利用者から見える意味

湯の権利と、土地の所有と、施設の経営は、それぞれ別に動いています。源泉名が同じでも、引いた距離や加水、加温の有無で浴槽の湯は変わります。北條浩と村田彰 2013 は、集中管理という配りかたが温泉地の歴史の中で作られてきたものであることを扱っています。宿が違っても源泉が同じであれば、掲示に載る分析の値は同じ紙から写されます。掲示の源泉名は、湯の出どころだけを指す一語です。

勘違いしやすいところ

許可を持っていることと、湯を使う権利を持っていることは別です。温泉の利用の許可は行政が与える手続き上のもので、源泉をめぐる私法上の争いはそれとは別の枠で扱われます。裁判例も事案ごとに射程が違い、一つの判断を全国へ広げて読むことはできません。湯を配る形の違いは、その土地の管理のしかたの違いであって、施設の姿勢の優劣ではありません。