眠って記憶を固める
睡眠
覚えたあとの眠りが、その記憶を残りやすい形に変える
どんな技?
夜のうちに単語や用語をひと通り覚えたら、そこで切り上げてふだんどおりの時刻に眠り、翌朝もう一度思い出せるかを確かめます。足す道具も教材もなく、覚えたあとに眠りをはさむという順番だけを整える技です。夜に覚えて朝に試す形にしておくと、残った量を回ごとに比べられます。逆に眠りを削って机に向かうと、この順番そのものが崩れます。
なぜ効くのか
起きているあいだに作った記憶の跡が、眠るあいだに何度も呼び出されて別の場所へ移し替えられていく、という筋道が想定されています。これを記憶の固定化と呼びます。覚えた直後の記憶は干渉に弱い状態で置かれていて、割り込みに崩されやすいところがあります。眠りは新しく覚え込む時間ではなく、安定していく時間として扱うことになります。
やり方
覚える作業は眠るまでの2時間以内に収め、そのあとは新しい材料を入れずに床につきます。翌朝は机に向かう前に白紙に書き出すで残りを確かめ、抜けたところだけをその日の復習へ回します。確認にかける時間は5分前後で足ります。夜の枠と翌朝の確認は同じ材料でそろえると、増減が見えるようになります。抜けが多い日は、次の夜にその分だけを戻します。
はまりどころ
徐波睡眠が言葉を、レム睡眠が手順を受け持つという役割分担は単純化しすぎだと批判されており、断定できません。実験で使われた材料も単語対や図形の位置が中心で、試験範囲がまるごと残るという話には広げられません。眠りは覚える手間を肩代わりしないので、覚え込みが足りないまま眠っても残る量は増えません。眠りながら新しく覚える方法は睡眠中に流して覚えるの側です。
確かめられ方
Rasch と Born 2013 の総説は、眠りのあいだに記憶が整理される過程を多くの実験から束ねたものです。ただし確かめられているのは、主に単語対や図形の位置を覚えてから翌日までにどれだけ残るかという範囲です。続く Cordi と Rasch 2021 では、同じ著者の手で再現できていない報告や差の出ない結果が並べられ、効果は想定より小さく条件がそろったときだけだと書かれています。
解説動画(海外・英語): The benefits of a good night's sleep - Shai Marcu/TED-Ed
試験前夜の選択: 試験まで8時間、そのあとピアノの発表会という午前4時から動画は始まります。コーヒーをもう一杯飲んで一夜漬けと練習を続けることもできるけれど、本と楽譜を閉じて眠るほうがよいかもしれない、と切り出します。睡眠は人生のほぼ三分の一を占めるのに、大事な仕事が終わってから休むための時間と見なされがちだ、という誤解の指摘から入ります。
忘れる量と固定化: 19世紀の心理学者エビングハウスは、新しい材料の4割が最初の20分で失われることを示しました。動画はこれを忘却曲線と呼び、その目減りを防ぐのが記憶の固定化だと続けます。消えやすい短期の記憶を長持ちする側へ移していく過程で、ここに脳の海馬が大きく関わると述べ、裏づけとなった古い症例へ話を進めます。
海馬が担うもの: 海馬の役割は1950年代、ブレンダ・ミルナーがHMと呼ばれる患者を追った研究で示されました。海馬を取り除いたあと、新しい記憶を長く保てなくなった一方で、繰り返せば体の動かし方は身についたと動画は紹介します。ここから海馬は、手続き記憶と宣言的記憶のうち、指の運びのような手順ではなく試験で問われる事実や概念の側の固定化に関わると整理されます。
眠りが呼び戻す: 睡眠は四つの段階からなり、深いところに徐波睡眠とレム睡眠があります。動画は、徐波睡眠のあいだに事実の記憶がいったん海馬に置かれ、皮質とのやり取りのなかで何度も呼び戻されながら長期の置き場へ移っていくと述べます。起きているときの脳の働きに近いレム睡眠のほうは、手順の記憶と結びつけられると続けます。
眠ってから考える: 動画は研究をもとに、公式を覚えた3時間後、音階をさらった1時間後に眠るのが理想だとまで踏み込みます。そして睡眠を削ることは、健康を損なうだけでなく前の晩に入れた知識や練習が残りにくくなることでもあると結びます。眠りは学ぶ時間を削って捻出するものではなく、入れたものが落ち着く時間だという着地です。