星月夜
ポスト印象派
星月夜は、フィンセント・ファン・ゴッホによる1889年の作品。
どんな絵か
夜空が渦を巻き、手前の糸杉が炎のように天へ伸びる。空が画面の大半を占め、谷あいの村は小さく静かにまとまっている。描いたのは1889年、南フランスのサン=レミにある療養所にいたゴッホである。その窓から見た夜の景色と夜明けの景色を組み合わせた絵だと Art Assignment は見る。絵の具は厚く盛られ、複製では伝わりにくい凹凸がある。
どこを見るか
Art Assignment は、糸杉と教会の尖塔の縦線が、横に広がる村と斜めに崩れる山並みを受けとめ、つり合わせていると見る。Great Art Explained は糸杉を画面の手前へ大きく寄せた切り取りを、浮世絵に近いとする。2024年の研究は、輝度のむらが乱流のコルモゴロフ則(−5/3)に近いとし、2020年の研究は、中間の波数域のスペクトルが乱流の慣性領域の則に従わず、乱流と見る読みは根拠が乏しいとした。
使われている技法
カンヴァスに油彩。Great Art Explained は、短く太い筆致を盛り上げて置くインパストで、画面から数ミリ浮く所もあると説明する。空はコバルトとウルトラマリンを重ね、緑と紫を差して震わせ、黄の星を青の隣に置いて補色の強さを出す。手直しは少ないとされ、Art Assignment は、乾く前の絵の具に重ねて一気に描いた(ウェット・オン・ウェット)と見る。
描かれた背景
1889年、ゴッホは療養所の東向きの部屋の窓から見た景色をもとに、昼のアトリエで記憶を頼りに描いた。Great Art Explained は、6月18日に描かれたとし、ゴッホ自身はこの絵を、想像に頼りすぎた失敗作と見ていたと話す。村は部屋からもアトリエからも見えない方角にあり、絵の中で描き足されたものとする。村の教会は北ヨーロッパ風とされ、こやぎ先生の美術ちゃんねるは故郷オランダの教会の記憶とみる。
出典
- 動画・英語 The Art Assignment(PBS Digital Studios) Better Know: The Starry Night
- 動画・英語 Great Art Explained Vincent Van Gogh's The Starry Night: Great Art Explained
- 動画 こやぎ先生の美術ちゃんねる 楽しく解説!美術講座【星月夜】なぜ人はゴッホを愛するのか?
- 論文・英語 Yinxiang Ma ほか(Physics of Fluids)(2024) Hidden turbulence in van Gogh's The Starry Night
- 論文・英語 Warren H. Finlay(Journal of Turbulence)(2020) The midrange wavenumber spectrum of van Gogh's Starry Night does not obey a turbulent inertial range scaling law
解説動画: 希望の夜景から嵐の夜空へ、星月夜に至る道/美術の物語★ALBAのアートチャンネル
この絵をどう見ているか: 現実の夜そのものではなく、記憶と想像が入り混じった心の風景であり、ゴッホの内面を映す鏡でもあると位置づける。夜景を繰り返し描いた画家だとして、アルルの《夜のカフェテラス》の希望に満ちた黄色い光や、川面に星が映る静かな夜景と並べ、この絵では画面全体が激しくうねると対比している。
そこに至るまでの事情: 1888年、南仏アルルで芸術家の共同体を夢みて黄色い家にゴーギャンを迎えたが、性格も芸術観も異なる二人は衝突を重ねて決裂し、年の暮れに耳を切る事件が起きたと説明する。病名は今も確定しておらず諸説あるが、幻覚や幻聴があったといわれる。自ら療養を決め、1889年にサン=レミの修道院を改装した療養院へ入った。
どこを見るか: 最大の特徴は夜空全体に広がる渦巻きだとする。青と黄の空がうねり、星と月が強い黄色で燃える一方、画面の下の村は静かにまとまっていて、その対比が異様な生命感を際立たせるという。療養院では発作で戸外に出られない時期があり、記憶を頼りに描いたり過去の作品を模写したりすることが多かったとも述べている。
どう解釈しているか: 牧師の息子で自身も牧師を目指したゴッホにとって、自然は単なる客観的な現象ではなく神秘的な存在で、太陽や星空に宗教的な象徴性を重ねていたと述べる。うねる空は精神の嵐であると同時に、超越的な自然観・宇宙観を示唆するという見方を示し、単一の解釈には決められない重層的な象徴が秘められているとする。オーヴェールで描いた教会の絵にも同じうねりが現れるとして、この絵を転換点に置いている。