サン=トロペの港
ポスト印象派
ポール・シニャック/1901〜02年
どんな絵か
南フランスの港を岸から見た絵。手前の岸は青紫の影で、網を扱う人影が小さく並ぶ。中央は光る水面、その奥に鐘楼のある町、上は桃色の空。画面全体が細かい四角い筆あとで埋まる。131×161.5cmのカンヴァスで、東京の国立西洋美術館にある。
どこを見るか
手前の岸が暗く中央の水面がいちばん明るいので、目はまず画面の中ほどへ吸われる。そこから右のマストと帆をたどって奥の町へ進む。青紫の水と橙の屋根で補色が全面に細かく組み合い、彩度を落とさないまま明暗の差だけで奥行きが出る。近づくと粒、離れると光になる距離で変わる絵。
使われている技法
カンヴァスに油彩。スーラが始めた点描を受け継ぎつつ、細かい点ではなくモザイクのような四角い筆あとを並べる。色は混ぜずに隣り合わせ、見る人の目の中で混ざるのを狙う。この置き方が次の世代のフォーヴィスムの色使いへつながっていく。
描かれた背景
シニャックは1892年のヨット旅行でサン=トロペを見つけ、以後10年ほどパリと往復しながらこの港を描き続けた。本作は新印象派の規則から色が自由になっていく途中に置かれる一枚。ドイツの収集家オストハウスからフォルクヴァング美術館、ロンドンの画商を経て、1980年代に国立西洋美術館へ入った。
解説動画: 青とオレンジで組んだ港、離れて見て近づいて見る/国立西洋美術館 National Museum of Western Art, Tokyo
どんな絵として紹介しているか: 1902年、シニャックが30代の終わりに描いた作品で、彼の風景画の中では最も大きい代表作の一つだと紹介する。港の全体を西側から眺めた眺望で、古い町からその奥の丘まで、サン=トロペの風物の全貌が収まっていると述べる。シニャックは印象派のモネやルノワールの影響を受けたのち、新印象主義という運動を自ら立ち上げ、その中心として活動を続けた画家だと位置づける。
画面の軸になっている補色: 新印象主義の色彩理論の基本にあったのは補色で、赤と緑・青とオレンジ・黄色と紫の三組があると説明する。この絵で軸になっているのは青とオレンジ。実際には代赭や赤茶の建物が並ぶ旧市街を明るいオレンジの集まりに置き換え、その補色の青を手前の影に使う。水面に映る影にも、右のヨットとその奥の風景にも同じ対比が仕込まれていると指摘する。
どう見るのが勧められているか: その青とオレンジを軸に、さまざまな色のタッチをモザイクのような筆致で並べて画面を組み立てていると説明する。ほかにも豊かな色が数多く使われているので、離れて全体を見るのと近寄って一つ一つのタッチを見るのを両方やってほしいと勧める。そうすることで、シニャックが色彩によって風景をどう表そうとしたのかが味わえると締めている。