蛇使いの女
ポスト印象派
アンリ・ルソー/1907年
どんな絵か
月の出た水辺に、黒い影として塗られた女が立って笛を吹く。木々から蛇が伸び、足もとにも一匹。左下には大きな桃色の鳥がいる。葉の一枚一枚が輪郭を保ったまま重なる密林だが、ルソーは熱帯へ行ったことがない。169×189.5cmのカンヴァスで、パリのオルセー美術館にある。
どこを見るか
画面は右三分の二が黒い葉の壁、左三分の一が水と空に分かれる。女はその境目に立ち、左上の月と斜めに向かい合う。光源が背後にあるので体は逆光の影になり、光るのは目と笛だけ。手前の草、中景の水面、遠くの森と、明度の三段だけで奥行きがつくられている。
使われている技法
カンヴァスに油彩。葉ごとに緑を細かく変えながら、境目をぼかさずに塗り分ける。筆あとを平らにならすので、離れて見ると切り絵を重ねたように見える。遠近法は大きさと明るさの差だけでつけ、遠くの森まで葉の形をぼかさずに残す。
描かれた背景
1907年、画家ロベール・ドローネーの母がインドの旅の話をもとに注文した一枚で、その年のサロン・ドートンヌに出た。ルソーは税関の職員をしながら独学で描いた人で、密林は植物園と図版から組み立てたと考えられている。素朴派と括られるが、当時の若い画家たちは真剣に受け止めた。
解説動画: 独学で描き続けた税関吏の、頭の中のジャングル/日めくり3分間名画の旅
どんな画家の絵として紹介しているか: アンリ・ルソーを19世紀末のパリで活動した素朴派の画家として紹介する。素朴派にきちんとした定義はなく、20世紀初めごろに正式な美術教育を受けないまま独学で描いていた人たちの総称だと説明する。一見素人のようでいて、その素朴さの中に芸術的な魅力が込められているとし、ルソーは税関に勤めながら描き続けた人だと付け加える。
この絵をどう見ているか: ルソーの代表作として挙げ、さまざまな葉が生い茂る水辺で、大蛇に囲まれた女が影のような姿で笛を吹く場面だと述べる。ただしルソーはフランスを出たことがない。パリの植物園や図書館で見たり調べたりしたことをもとに、頭の中のイメージで組み立てていると説明し、現実ではなく夢の中のものを描き混ぜるのがこの人の絵だとまとめる。
生前の評価とその後: 生前は酷評され続けたが、意に介さず描き続け、やがてピカソに絶賛されるようになったと語る。晩年も暮らしは苦しく、幸せな一生とは言いにくいとしながら、好きな絵を描き通せた点では幸せだったのかもしれないという見方を示す。後の画家への影響も大きく、色を引き立たせる黒の使い方は真似ができないと言わしめたと紹介している。