墨

絵の具・描画材

墨は、一色だけで濃淡をつくる黒。

どんな道具か

煤(すす)を膠(にかわ)で練り固めた黒。煤と膠の混ざりものは、コロイドの系として調べられている(Swider ら、2003)。煤は、松を不完全燃焼させた松煙と、植物油を燃やして取る油煙があり、油煙が主になったのは10世紀以降と見られる。製法は、煤と膠を水で練り、型に入れて乾かして固める。硯で水と磨ると、濃さは水の量で決まり、一色のまま濃淡を自分で決められる。

選び方

最初は墨液でいい。固形の墨は、水を少しずつ落としながら磨ると10〜15分で濃い墨になり、墨液はその手間を省くために作られた(Aki Kato の実演)。淡い墨は、パレットの墨液に水を足すより、水に墨液を足すほうが作りやすい(図工人の指導者向けの解説)。紙は和紙か厚めの版画用紙が扱いやすく、ドーサ引き(にじみを抑える処理)の紙はにじみを使う題材には向かない。

使い方のコツ

まず新聞紙の上で試し描きする。紙に付いた墨は消せず、重ねるほど濃くなるだけ(Aki Kato)。水を塗った紙に墨を落とすと広がり、乾いた紙では広がりにくい(Aki Kato)。かすれは筆の墨を少なくして出す(図工人)。線の縁は、筆を速く動かすと締まり、止めて置くとにじむ(Aki Kato)。水墨画では、筆の水を2面だけ切って平たくし、両側に墨を含ませる両隈(つらら庵)も使われる。

手入れ・注意

水の入れ物は2〜3個用意し、1つは墨の入らない清水にしておく(Aki Kato)。墨の細かい炭の粒は紙や絹の繊維に入り込み、光にとても強い(ペンシルベニア大学博物館の解説)。正倉院に残る墨の文書は、千三百年ほど経っても読める(墨メーカーの野田盛弘、2016)。布に付くと落ちにくいので、エプロンなどで服を守る(Aki Kato)。

出典

  1. 論文・英語 Swider J. R., Hackley V. A., Winter J.(2003) Characterization of Chinese Ink in Size and Surface
  2. 論文 野田盛弘(墨メーカー・呉竹)(2016) 奈良の墨
  3. 公的機関・英語 スミソニアン協会 国立アジア美術館(フリーア・サックラー) Inkstick(Four Treasures of a Scholar's Studio)
  4. 資料・英語 ペンシルベニア大学博物館 Chinese Ink
  5. 動画・英語 Aki Kato(Arts Center of Coastal Carolina) Sumi-E: Japanese Ink Painting with Aki Kato
  6. 動画 図工人 小学校図画工作高学年用絵画題材(5年・6年) 和紙と墨でできる表現がおもしろい「墨で表す」
  7. 動画 和雑貨屋つらら庵 【水墨画】様々な調墨による描き方 初心者でも簡単な墨絵技法

解説動画: 固形墨と液体の墨は何が違うのかを比べる/有隣堂しか知らない世界

墨は二つに分かれる: 墨は固形墨と液体の墨に分かれると整理している。二千年ほど前に今の棒の形になってから形が変わっていないこと、日本へは飛鳥時代に伝わったことを挙げ、液体の墨は百年ほど前に学生向けとして出たものだと説明している。値段は数百円から数十万円まで幅がある。

濃く使っているうちは差が出ない: 真っ黒に濃く使っているあいだは、固形墨でも液体の墨でも大きくは変わらないとしている。違いが出るのは水を足して薄めたときで、固形墨は輪郭ににじみの層ができ、それが持ち味だという。液体の墨は合成樹脂で固めてあるぶん、同じ出方にはなりにくいと説明している。

磨り方: 硯の平らなところに五百円玉ほどの水を垂らし、その上で円を描くようにして、とにかく優しく磨るよう教えている。最初に水を多く入れると時間がかかるので、濃くなってきたら少しずつ足していく。濃い墨ができたら、そこから段階的に水を加えて薄い墨も作っておく。

線が重なったところ: 先に引いた線には後の墨が入っていかないので、あとの線が下に潜って見える。固形墨ならこの重なりがそのまま出るのに対し、安価な液体の墨では交差した部分が束になると、二本の線を引き比べて見せている。同じ黒でも、線が重なる場所で違いが出るという。