水の使用量が9割減る?
水と資源の説
判定: 条件によって変わる
9割は、水を入れ替える魚の養殖と比べたときの数字です。土で育てる場合と比べた記述もありますが、循環式の水耕を相手にすると差はほとんど残りません。
言われていること
「アクアポニックスは畑の10分の1の水で育つ」「従来の農業より90%の節水になる」という書き出しが、入門記事や案内の先頭に置かれます。FAOの資料にも、同じ植物を土で育てるのに要る水のおよそ10%しか使わないと書かれています。土耕の10倍の収量が出る?と並べて紹介されることも多く、そのとき何と比べての1割なのかはそえられていません。
誰が、何を、どう測ったか
9割の出どころはLennard 2005で、研究室規模のアクアポニックスと、硝酸態窒素(NO₃-N)をうすめるために水を入れ替える循環式養殖とを比べた値です。同じ系統の測定はほかにもあり、McMurtry 1990 と Rakocy 1989 は、池の養殖に対する水の使用量をおよそ1%と報告しています。Lennard と Goddek 2019 は、この数字が植物を土で育てる話にすり替わったと書いています。
測るとどうか
Calone ら 2019が欧州ナマズの循環式養殖で測った水の出入りは、1日555Lの給水のうち460Lが捨てられ、蒸発は32Lでした。レタスをつないで水を回す試算では、給水が1日50Lまで下がります。一方、同じ試験で水耕と並べた1株あたりの使用量には区ごとの差が出ず、平均は1日46mLでした。
どう言えば正しいか
相手を書いてから数字を言うと正しくなります。水を捨てる魚の養殖が相手なら、9割は測られた値です。土の畑が相手なら出どころが変わり、循環式の水耕が相手なら株あたりの水はほとんど変わりません。減る道は蒸発と蒸散だけではなく、沈殿槽から汚泥を抜くときにも出ていくので、水は減った分を足すだけでよい?と合わせて読みます。
解説動画: What is RAS? How It Works/Blue Planet Academy
かけ流しとの違い: 動画はRAS=循環式の養殖を、育てる水を捨てずに洗って使い回す作りとして説明します。かけ流しの施設が水を入れ替え続けるのに対し、こちらは粒を漉し、二酸化炭素とアンモニアを抜き、酸素を足して同じ水を戻す。水をきれいにして返す工程が、そのまま設備になっているという説明のしかたです。ここが節水という言葉の中身になります。
節水から始まった: この技術は、もともと貴重な淡水を節約するために作られたと動画は言います。ノルウェーのスモルト生産は、かけ流しだけに頼っていたらおそらく規模が限られていたという例が挙がります。そのうえで、いま新しく建つ施設はほぼすべてが循環式だと続け、水の制約が作りを決めてきたことを示します。
熱も使い回せる: 回した水には温度も残るので、温めるために入れた熱がむだになりません。動画はここから一年じゅう高い水温を保てることを利点に挙げ、陸上での大きなポストスモルト生産はこの技術なしには広がらなかったと言います。水温を土地の自然条件に頼らず作れるのが、循環式の性格だという話です。
水質と菌のこと: うまく動いている施設は、かけ流しより環境が安定し、とくに水質が落ち着くので魚の状態と育ちがよい、と述べます。ゆっくり増える無害な菌にとって良い条件がそろい、悪さをする日和見の菌が出にくくなるとも言います。取り入れる新しい水が少ないぶん、入り口でしっかり消毒できるという言い方です。
何と比べた9割か: 動画は、水の使用量について割合の数字をいっさい出しません。かわりに出てくるのは、水を入れ替え続ける施設と、同じ水を回す施設という比べ方だけです。この説の9割も、水を入れ替える魚の養殖を相手にしたときの数字でした。相手を書かずに数字だけを持ち出すと、何に対して減ったのかが消えます。