双眼鏡
見る道具
よく見えるかどうかを決めるのは、倍率ではなく口径です。集めた光を倍率で割った射出ひとみ径が、目に届く明るさをそのまま決めます。
何が見えるようになる道具か
肉眼より多くの光を集めて、暗いものを見える側へ持ち上げる道具です。集まる光の量は対物レンズの面積に比例するので、口径50mmは、瞳孔が7mmまで開いた目のおよそ50倍にあたります。この差が肉眼の限界等級を数等ぶん深くし、一つの星に見えていたミザールとアルコルが二つに割れ、白いしみだった星団に星の粒が並びます。倍率は像を大きくする側の働きで、見えるかどうかを決めているのは口径のほうです。
選ぶときに見るところ
仕様は7×50や8×42のように倍率と口径(mm)で書かれます。口径を倍率で割った値が射出ひとみ径で、7×50なら7.1mm、8×42なら5.3mmです。この円が瞳孔より大きいと、はみ出した光は目に入りません。倍率を上げると同じ口径では像が暗くなり、実視界も狭くなります。日本産業規格 JIS B 7121 は倍率・実視界・射出ひとみ径を定めており、見掛け視界60度以上を広視界とする区分も同じ規格から来ています。
使うときの注意
太陽へ向けないことだけは、選ぶ前の約束です。この本が扱うのは夜の空だけです。その夜については、倍率が上がるほど手の震えがそのまま拡大されます。10倍を超えると手持ちでは星が線を引くように揺れ、暗い星やプレセペ星団のような淡いものから先に消えます。重さも効き、50mm級は1kg前後あるので腕を上げていられる時間が観察の長さになります。眼鏡をかけたまま覗くなら、射出ひとみ距離が15mm前後ないと視野の縁が欠けます。
無いときの代わり
肉眼で足りる対象は多く残っています。暗順応の進んだ目は6等前後まで届き、ヒアデス星団の散らばりや天の川の濃淡は道具なしで見えます。淡いものは視線を少し外して見るほうが浮かびます。手元にオペラグラスや3倍前後の小型のものがあれば、増える星は少ないものの、視野が広いぶん星の並びをたどる役には立ちます。揺れない像がほしいだけなら、双眼鏡用の三脚を先に用意するほうが効きます。