湯口の石灰華
湯口と浴槽につくもの
湯口が、少しずつ石に埋もれていきます。二酸化炭素が抜けたぶんだけ炭酸カルシウムが溶けていられなくなり、湯の通り道に沈んで盛り上がります。
どう見えるか・どう感じるか
湯の出口や樋の表面が、白から淡い褐色のこぶに覆われて盛り上がります。手で触れるとざらついて硬く、爪では削れません。湯の落ちる筋に沿って段や棚の形に育ち、割ると薄い層が重なった断面が現れます。つやのある緻密な層になる湯口の珪華とは手ざわりが違い、こちらは酸をかけると泡を立てて溶けます。年単位の時間が、そのまま厚みに出ます。掃除で落としきれなかった部分だけが、そこに残って育ちます。
何がそうさせているか
引き金は、二酸化炭素が空気へ抜けることです。カルシウムと炭酸水素イオンは、二酸化炭素があるあいだは水に溶けていられますが、抜けると釣り合いが崩れ、炭酸カルシウムとして固まります。肌につく泡と引き金は同じで、湯が跳ねる場所や落差のある場所から先に厚くなります。神奈川県温泉地学研究所は、地中から湯を汲み上げる揚湯管の内側にも同じ沈殿物が付きやすいと説明しています。
出やすい泉質
カルシウムと炭酸水素イオンをともに多く含む湯で育ちます。炭酸水素塩泉がその中心で、二酸化炭素泉では抜ける気体が多いぶん、沈殿は速く進みます。石灰岩を通ってきた地下水はカルシウムを拾いやすく、湧出量の多い湯口ほど厚みが出ます。泉質名が炭酸水素塩泉でも、ナトリウムが主でカルシウムが少なければ育ちません。分析書のカルシウムイオンと炭酸水素イオンの量を、並べて読む欄になります。
時間と空気でどう変わるか
積もる速さは、気体の抜けやすさで決まります。湯を加温すれば二酸化炭素はいっそう抜けやすくなり、沈殿は速く進みます。設備の側では配管や熱交換器、貯湯槽の目詰まりにつながるため、温泉科学51巻にはスケールを防ぐ方法を調べた報告があります。積もった石灰華は成長が止まっても消えず、掻き取るか削るまでその場に残ります。表面が黒ずむときは、硫黄や鉄が後から重なっています。
どこまで確かめられているか
沈殿物が炭酸カルシウムであることは、鉱物として調べられています。古橋らは石灰華の炭素と酸素の同位体比を測り、沈殿したときの条件をたどる研究を報告しています(温泉科学58巻)。湯の中に炭酸カルシウムの微粒子が浮いていることも、電子顕微鏡で確かめられています(高松ら 2010)。ただし目の前のこぶが同じものかどうかは、壁の紙からは追えません。地上に広がるものは石灰華として別に扱います。