借刀殺人

勝戦計

計の順: 第三計

借刀殺人は、自分の手を汚さず、態度を決めていない第三者の手を借りて敵を討たせる計。

計名と解語(原文と書き下し)

借刀殺人。「敵已明、友未定、引友殺敵、不自出力、以《損》推演」(敵すでに明らかにして、友いまだ定まらざれば、友を引きて敵を殺し、自ら力を出ださず、損を以て推し演ぶ)。

解語の意味

原文は、敵ははっきりしているが味方につくか決めていない第三者がいるとき、その者を引き込んで敵を討たせ、自分の力は使わないと述べる。結びの「損を以て推し演ぶ」の「損」は易の損卦を指すと解される。損卦の彖伝は「損下益上」(下を損なって上を益す)と述べ、末尾は「損益盈虛、與時偕行」で結ぶが、解語はどの句を借りるかを示さず、この策との結び方は原文から確かめられない。

名前のもとになった故事

按語は、別の勢力が動き出したなら、その力を借りて敵を討つべきだと述べ、例に鄭桓公が鄶を襲った話を《韓非子・內儲說下》の注記付きで挙げる。韓非子では、桓公が鄶の有力な臣の名に良田と官爵を添えて書き、郭門の外に壇を設けて埋め、盟約のように見せた。鄶君はこれを内部の難事(內難)と受け取り、自ら良臣を皆殺しにし、桓公は鄶を襲って取った。

故事と成立でどこまで確かめられるか

史記・鄭世家は、太史伯の助言で虢・鄶の近くに移った桓公に、虢・鄶が十邑を献じたと書き、国語・鄭語は、桓公が家族と財を虢・鄶に預けたと書く。確かめた範囲では、どちらにも名簿を埋めて内部を疑わせる話は見当たらず、韓非子とは筋が違う。維基文庫の頁では、按語は「先向」「盡書姓名」、韓非子は「先問」「盡與姓名」と字も違う。この故事がどこまで実際に近いかは確かめられない。

よくある言い換えとのずれ

人を使ってうまく立ち回ること全般を指す言い回しとして使われることがあるが、按語の故事が示すのは、味方につくかどうかまだ決めていない第三者を欺いて動かし、自分の手を汚さずに敵を排除させるという、より限定された筋書きである。動画(Yukiharu Yamashita)は、赤壁の戦いの前に周瑜が偽の手紙を曹操方の間者・蒋幹に渡し、曹操に蔡瑁・張允を斬らせた話を例に挙げるが、これは小説『三国演義』第四十五回の筋で、按語の韓非子の故事とは別の話である。