兵は詭道なり
孫子の兵法
「兵は詭道なり」は、だまし合いの格言として引かれる一句を原典に戻す項目。
よく言われること
『孫子』は「兵とは詭道なり」、つまり戦争の本質はだまし合いだと説いた、という趣旨でこの一句だけが引かれることがある。
原典では何と書いてあるか
詭道とは、『孫子』計篇の「兵者、詭道也」(兵とは詭道なり)の一句が指す、敵の判断を狂わせるための十二の具体的な手立てを言う。できるのにできないふりをする、近くにいても遠くにいると見せる、利益を示して誘い出すなど、原文はこの句の直後に例を列ね、句の前には道・天・地・将・法の五事と七つの問いで味方と敵の条件を比べる長い議論を置く。
どこがずれているか
「戦争とはだまし合いだ」という戦争観そのものを表す格言として広まっているが、原文でこの句は、五事七計による比較のあとに置かれた十二の具体例の見出しに過ぎず、戦争全体を定義する言葉としては書かれていない。
なぜそう広まったか
短く強い響きを持つ一句だけが、五事七計という前段を省いて引用されやすく、「兵法とは謀略である」という通俗的なイメージとも結びつきやすい。
原典に沿って言うなら
Lisa Raphals(Early China、2016年)は、『孫子』が戦争における詐術と迂回戦略を明示的に称賛する点で他の兵家書と異なり、『荀子』は民事と軍事の両方で詐術と迂回戦略を拒否すると対比する。『孫子』が詭道と呼ぶのは、味方と敵の条件を比べ尽くしたうえで敵の判断を惑わす具体的な手立てであり、戦争そのものをだまし合いと定義した言葉ではない。