摩擦
戦場で起きること
篇: 第一篇
摩擦は、理屈のうえでは単純なはずのことが実際にはなぜこれほど難しくなるのかを、無数の小さな支障の積み重ねとして説明する章。
『戦争論』のどこにあるか(篇と章)
第一篇第七章「戦争における摩擦」。
原語と原文
「Es ist im Kriege alles sehr einfach, aber das Einfachste ist schwierig.」(戦争ではすべてが非常に単純であるが、もっとも単純なことが難しい)。
クラウゼヴィッツの言っていること
原文は、戦争の理論だけを見れば個々の作業は単純に思えるのに、実際にやってみるとその単純なことがひどく難しくなる、という逆説を指摘する。そのうえで、天候や地形、伝わる情報の不確かさ、疲労といった無数の小さな支障が積み重なることで、機械の歯車どうしのあいだに生じる摩擦のように、計画どおりに物事が運ばなくなる働き全体を「摩擦」と呼んでいる。
研究者の間で読みが割れるところ
「摩擦」を、力学の比喩どおり一つのまとまった力として捉えるべきか、それとも天候・情報・疲労といった性質の異なる困難をまとめて指す総称的な言葉として捉えるべきかは、研究者の間で見方が分かれる。この語をどこまで厳密な概念として扱うかによって、他の章で述べられる危険や不確かな情報との関係の説明も変わってくる。
よくある引用とのずれ
「摩擦」という語が、仕事や日常での何らかのトラブル一般を指す言葉として広く使われることがあるが、原文が指しているのは、戦争という特有の営みの中で天候・情報の不確かさ・疲労などが積み重なって計画を狂わせていく、という限定された働きのことである。