競泳の水着

水の中

水の抵抗を削るための布と締めつけ

何が起きている?

水の中では体が受ける抵抗が空気中とは桁違いで、水着は肌をなでる水の摩擦と体そのものの形の両方へ同時に手を入れる道具です。表面をなめらかに織り、縫い目を減らし、体をきつく締めて前から見た断面を小さく保ちます。着るのに20分近くかかるものもあり、レース前の着付けまでが準備の一部になっています。

流れとしての理屈

水は空気の約800倍の密度で、抵抗はおおむね速度の2乗で増えます。効いているのは二つで、体の表面を滑る水が引きとめる摩擦抗力と、体の凹凸から水が離れて後ろの圧力が下がり、前側の高い圧力が押し返してくる分です。後ろが引っぱっているのではなく、押し勝っているのは前のほうです。だから布は表面をなめらかにし、締めつけは腰の落ち込みを止めて後ろの低い領域を細くします。

選手がしていること

サイズは一段小さいものを選び、時間をかけて位置を合わせます。腰から腿の締まりが弱いと下半身が沈むので、着る高さを数センチ単位で調整する選手もいます。ただし素材と覆える範囲は競技規則で決まっていて、外れると記録が認められません。規則は改定を重ねているので、泳ぐ前に最新の競技規則で確かめてください。

勘違いしやすいところ

表面がつるつるなら速い、とは限りません。2000年代の全身タイプが記録を量産した主因は、なめらかさよりも浮力と体型の保持だったという見方が強く、だから覆える範囲のほうが先に制限されました。流線形なら必ず抵抗が小さいという思い込みと同じで、形だけを見て中身を取り違える話です。

解説動画(海外・英語): Why Swimming Tech Suits Are BANNED/MySwimPro

抗力を削る布と締めつけ: 競泳のテック水着がしているのは一つ、抗力を減らすこと。水をはじく生地や撥水加工で表面の摩擦をほぼ消し、第二の皮膚のようにきつく着せる。締めつけは筋肉を圧迫して力の出方と血流を助け、筋肉どうしが連動する織り方のものもある。覆う範囲は男子が腰から膝、女子が肩から膝まで。

研究が出した数字: アメリカスポーツ医学会の学会誌の研究では、練習用の水着で泳いだときに比べ最大3.2%速い記録が出て、抵抗は最大6.2%減、泳ぐのに要るエネルギーは最大5.5%減。1かきで進む距離とかく速さも良くなった。2009年と2011年の世界選手権では91人のプロが4泳法の50メートルを泳いで比べ、平均でコンマ数秒縮んだ。動画は「50メートルで半秒は大きい」と言う。

NASAが関わった水着: 2008年、スピード社がNASAの協力で作った全身タイプのLZRレーサーが出た。ポリウレタン製で浮力が上がり体が水面近くに保たれ、水をはじくパネルと合わせて抵抗を最大24%減らしたという。今のテック水着の6.2%と並べると差は大きい。北京五輪ではメダリストの98%がこれを着て、23の世界記録が破られた。

記録量産から禁止へ: 2009年のローマ世界選手権では1週間で43もの世界記録が落ちた。アリーナのX-Glideを着たパウル・ビーダーマンが200メートル自由形でフェルプスを下し、世界記録を1秒近く更新。フェルプスは禁止されるまで泳がないと言い出す。国際水泳連盟はついに全身型を禁じた。当時の水着は泳ぐ側からもハンガーにかかったドーピングと呼ばれていた。

決められた素材と今の水着: 新しい規則では素材は水を通す繊維に限られ、ポリウレタンもファスナーも使えない。覆えるのは男子がへそから膝上、女子が肩から膝まで。今のテック水着は着るのに20〜30分かかり、もつのは数レース。炭素繊維入りのアリーナ・カーボンエア2は他より30%軽く、スピードのLZRピュアインテントは水を入れないウエストバンドでスプリンター向け。ティア・ベンゾは平泳ぎの選手に好まれ、内側のテーピングで脚の筋肉をまとめる。どれくらい速くなるかは人によると動画は言う。