種が風で運ばれる
生きもの
落ちる速さを抑えて風に乗る種のしくみ
どんな流れ?
親の株から離れた種が、落ちる速さを抑えたまま風に乗って移動します。綿毛を広げるもの、一枚の羽根で回りながら落ちるもの、薄い膜で滑るものがあり、落ちる速さは秒速三十センチから一メートルほどまで下がります。ゆっくり落ちるほど横風に長くさらされるので、届く距離が伸びます。
なぜ起きるか
落ちる速さは、重さと空気の抵抗が釣り合う終端速度で決まります。カエデの種は回りながら落ち、翼の上に渦をのせて流れを下へ曲げ続けるので、押し返す力が増えてゆっくり降ります。タンポポの綿毛は隙間だらけに見えて、細さのわりに空気が抜けにくく、綿毛の上に離れた渦の輪ができて姿勢が安定します。この輪が確かめられたのはここ十年ほどのことで、まだ調べている途中の話です。
どこで見られるか
春の綿毛、秋のカエデやマツ、河原のススキ。晴れて乾いた日ほど飛びやすく、湿ると綿毛が閉じて飛びません。空き地や街路樹の下では、風下側にだけ芽が並ぶ様子が見られ、その年の風の向きが地面に記録されていることが分かります。舗装のすきまに芽が出るのも同じ運ばれ方です。
危険と注意
きれいだからと種を持ち帰り、別の場所に蒔かないでください。その土地にいなかった植物が広がると、生態系への被害として扱われます。保護区や私有地での採取は禁じられている場合が多く、自治体や環境省の一覧で扱いを確認できます。春先は綿毛と花粉が混同されやすいので、症状は医療機関で確かめてください。
解説動画(海外・英語): The Extraordinary Flight of Dandelion Seeds/fyfluiddynamics
30キロ先まで飛ぶ種: たんぽぽの種の大半は親株から2メートル以内に落ちるが、30キロ以上まで飛ぶことも珍しくない。自分を押し進める仕掛けを何ひとつ持たないままその距離に届くのだから、種は空中にとどまり続けることに並外れて長けている、ということになる。
9割が隙間の毛の傘: 種の上についた毛の傘は冠毛と呼ばれ、細い毛およそ100本でできている。毛1本の長さは7ミリほど、太さは16マイクロメートルしかない。面積のうち隙間が占める割合は92%ほどで、傘とはいってもほとんどが空っぽの空間である。
隙間だらけで抗力4倍: 冠毛の役目はパラシュートと同じで、抗力を使ってできるだけゆっくり落ちること。中身が空では効かなそうに見えるが、種を落として終端速度を測ったところ、面積あたりで比べて中身の詰まった円板の4倍を超える抗力が出ていた。
離れて浮かぶ渦の輪: 理由を探るため小型の風洞をつくり、落ち着いて飛んでいる状態の種を観察したところ、冠毛を通り抜けた空気が冠毛から完全に離れた位置に渦輪をつくっていた。こうした渦輪は理屈のうえでは予想されていたが、自然界で観察されたのは初めてだった。
隙間の多さが安定を生む: 形を変えた人工の種で試すと、この離れた渦の輪を安定させている鍵は隙間の割合だった。冠毛ほど隙間が多いと強い風の中でも輪が崩れない。おかげで種は途中できりもみして落ちることがなく、風が運ぶかぎり浮いていられる。