昆虫の羽ばたき

生きもの

翼の上に渦をのせて浮かぶ小さな飛行

どんな流れ?

小さな翼を一秒に二十回から二百回、種類によっては千回近く振って飛びます。翼の先は8の字に近い軌跡を描き、折り返しで裏返るようにひねられます。蚊の羽音は、その回数がそのまま音の高さになったもので、種類によって高さが違い、耳でも種類の見当がつきます。

なぜ起きるか

虫の大きさではレイノルズ数が小さく、空気は粘っこく感じられます。翼を止めたまま扱う計算では浮く力が足りません。実際には翼の前の縁で流れが巻き上がり、渦が翼の上に貼りついたまま運ばれます。この渦が空気を強く下へ曲げ続けるので、翼は空気を下へ押し、その反作用で虫が浮きます。返しの一振りで前に作った渦をつかまえる効果も加わります。「虫は飛べないはず」という昔の話は、止まった翼で計算した誤りでした。

どこで見られるか

花の前で止まって見えるハチやアブ、庭のトンボ、夕方の蚊柱。街灯の下で見ると、羽ばたきの速い虫ほど羽音が高くなるのが耳で分かります。前後の翅を連結して一枚のように使う種類もいて、翅の枚数や動かし方の違いは、そのまま飛び方の違いとして現れます。

危険と注意

羽音がしても手で払わないでください。秋のスズメバチは巣の近くで攻撃的になり、刺されたあとに息苦しさや広い範囲のじんましんが出たらすぐ受診を。巣の駆除は自分でやらず、自治体の相談窓口へ。虫よけの薬剤は、表示された使い方と対象の範囲で使ってください。

解説動画(海外・英語): Three-dimensional flapping flight of tiny insects using bristled wings/AFML OSU

小さい虫ほど抗力に苦しむ: サンタナクリシュナンらの先行研究では、一定の迎え角で回し続ける毛の無い楕円形の翼の場合、レイノルズ数が小さくなるほど抗力がとてつもなく増えるのに、揚力の伸びはごくわずかでした。アザミウマのようにレイノルズ数10ほどで飛ぶ小さな虫は、その大きな抗力を越えて体重ぶんの揚力を作らなければなりません。

毛の翼と激しい羽ばたき: アザミウマがとる手は二つ。毛の生えた翼を使うことと、高い迎え角で激しく羽ばたくことです。映像で比べると、大きなスズメガは細い8の字をほぼ一定の羽ばたき面で描くのに対し、アザミウマはもっと深い8の字を非常に高い振動数で描きます。なぜその虫がその動かし方なのかは、まだ説明がついていません。

模型で三つの動かし方を比べる: カソジュらは水平な面のなかで羽ばたくロボット模型を作り、毛の無い翼と毛の翼をレイノルズ数30と120で動かしました。羽ばたき方は既発表のアザミウマ・ハモグリバエ・ショウジョウバエのものです。アザミウマは打ち上げの途中できわめて速くひねり、終わりには翼が90度まで立ちます。

渦の見え方と揚力の対応: 粒子を追う流れの計測では、打ち下ろしで揚力が山になるとき前縁と後縁の渦が非対称になり、渦の偏りが残っていました。周期の半分あたり、打ち上げに移るところでは偏りがゼロになり、揚力も出ません。打ち上げの山では速いひねりによって強い前縁の渦ができ、レイノルズ数120では前縁の渦が引き伸ばされた形、30ではまとまって強い形になりました。

毛の効きと動かし方の優劣: 平均でみると、毛の翼は毛の無い翼より抗力が目に見えて小さく、その差はレイノルズ数30のほうが120より大きく出ました。平均の揚力はハモグリバエの動かし方がどちらでも最大で、揚力と抗力の比でもいちばん有利。ただしこれは翼一枚での結果で、二枚を打ち合わせる動きは今後の課題だと述べています。