音の幅・速さ・覚えている度合いから選ぶ考え方。
最初の1曲を決める順番は、音の幅・速さ・覚えている度合いの3段で見ると決めやすい。好きな曲をいきなり当てはめるより、この3条件に合う曲を手持ちのレパートリーから探すほうが、最後まで気持ちよく歌いきれる。
まず音の幅を見る。曲のサビの最高音と最低音を、ガイドメロディをなぞって小さな声で確かめる。無理なく届けば原曲キーのままで戦え、届かない音が複数あれば原曲キーと自分の音域で見分けてキーを変える。ポップソング20曲の抜粋を、原調と転調の両方で30人に模倣して歌わせた実験では、原調のまま歌ったほうが転調よりも最初の2音の音程が正確になる傾向があったと報告されている(Thompson, Mantell 2023)。キーを変えると声は出しやすくなる一方で、覚えている音程の記憶からは離れるぶん正確さがわずかに落ちうる。そのため、キーを動かすのは声域から外れて届かないときに限り、動かす幅も最小限にとどめる。
次に速さと旋律の跳び方を見る。速いテンポ・下降する旋律が重なったアルペジオを素人の歌い手に歌わせた実験では、音程のずれがいちばん大きくなり、訓練のない歌い手ほど影響が大きかったと分かっている(Bottalico, Graetzer, Hunter 2017)。最初の1曲は、中くらいのテンポで音の跳び方が小さい曲を選ぶと、途中で崩れにくい。基準は練習に向く曲の条件に挙げた条件と同じでよい。
最後に、どれだけ覚えているかを確かめる。同じ実験では、馴染みのある曲のほうが馴染みのない曲より、模倣した音程が正確になる傾向があったと報告されている(Thompson, Mantell 2023)。サビしか覚えていない曲、イントロの記憶しかない曲は、歌詞とメロディを同時に思い出しながら歌う負担が重なるので1曲目には向かない。通しで一度、小さな声で歌ってみて、息が続くか・歌詞が途切れないかを確かめてから決める。
好きな曲と歌える曲は違うことを踏まえると、聴き込んだ曲でも自分の声で成立するとは限らない。3条件を満たす曲が手元に無ければ、好きな曲は後の順番に残し、まず条件に合う1曲で歌い始めるほうが無難だ。
出典
- 論文・英語 Thompson RM, Mantell JT(Psychology of Music)(2023) The influences of familiarity and key on pitch accuracy in singing
- 論文・英語 Bottalico P, Graetzer S, Hunter EJ(Journal of Voice)(2017) Effect of Training and Level of External Auditory Feedback on the Singing Voice: Pitch Inaccuracy
