絵の構図や光を、自分の1枚に借りる。
名画を手本に作るとは、1枚の画面から決め方を1つずつ取り出し、自分の題材で使い直すことになる。画家も同じことをしてきた。ゴッホは1887年、歌川広重の大はしあたけの夕立をもとに油彩を描き、元の版画の縦横の比を保つために周りへ縁を残し、色は元より強めた(ゴッホ美術館)。マネのオランピアは、ティツィアーノのウルビーノのヴィーナスを形の上で引用しながら、女神を同時代の女性に置き換えた(オルセー美術館)。どちらも、借りたものと変えたものがはっきり分かれている。
最初に手本を1枚選ぶ。選ぶのは、図鑑に載る名画のように作者の死後70年を過ぎた作品に限る。好きな絵より、自分の描き癖や撮り癖から少し外れた絵のほうが効く。大学生に画家の絵を写させてから自由に描かせた実験では、見慣れない抽象の絵を写したあとに、手本とも違う新しい絵が生まれた。見慣れた様式の絵では起きず、写すか時間をかけて見続けると効き、別の描き方を頭で考えるだけでは効かなかった(Okada・Ishibashi 2017)。
次に、手本の骨組みを4つに分けて紙に書き出す。構図の型、光の向き、明暗の配分、色の数。真珠の耳飾りの少女なら、顔を中央に置く日の丸構図、暗い背景、数か所だけのハイライト。牛乳を注ぐ女なら、左上から入る窓の光と、牛乳の細い筋へ集まる視線。大はしあたけの夕立なら、橋が画面を斜めに割る対角線構図になる。形の型を探すときは、1つの物を凝視せず、少し引いて画面全体をぼんやり見ると、人の並びや体の形がつくる三角構図が見えてくる。三角形は昔から絵の安定に使われ、写真でも人や動物の姿で作りやすく、日の丸構図とも組み合わせやすい(TokyoCameraClub)。
書き出した4つのうち、1枚で借りるのは1つだけにする。窓の光を借りるなら、台所のコップやパンを窓辺に置き、構図と色は自分で決める。対角線を借りるなら、歩道橋や川べりの道を斜めに入れて撮る。題材は自分の身の回りから選ぶ。
できたら手本と並べ、借りた1点だけを比べる。2枚とも縮めて画面に並べるか、数歩離れて見ると、細部が消えて骨組みの違いが見える。光の向きが揃っているか、明暗の大きな塊が同じ位置にあるかを確かめ、外れていたら同じ題材でもう1枚作る。借りて作った1枚は習作と割り切り、次は別の1点を借りる。
やりがちな失敗は2つある。1つ目は、全部を一度に真似ること。構図も光も色も同じにすると、手本の縮小版になり、どの決め方が効いたのか見分けられなくなる。美術館で模写をする人でさえ、原画と取り違えられないよう、縦横とも2.5cm以上大きさを変え、比率も変えるよう求められている(ナショナル・ギャラリー)。2つ目は、表面の筆あとだけを真似ること。ウルビーノのヴィーナスの肌は近くで見ると塗りが粗く、離れると質感が合ってくる。筆あとは骨組みの上に乗る仕上げで、構図と明暗が違えば、同じ筆あとを置いても似た画面にはならない。写す技術そのものは「模写する」の節で扱う。
出典
- 公的機関・英語 ゴッホ美術館 Bridge in the Rain (after Hiroshige)
- 公的機関・英語 Musée d'Orsay(Google Arts & Culture の作品ページ) Olympia(Édouard Manet)
- 論文・英語 Okada T, Ishibashi K(2017) Imitation, Inspiration, and Creation: Cognitive Process of Creative Drawing by Copying Others' Artworks
- 動画 TokyoCameraClub(2021) 【写真10分教室】写真の中の三角形?三角構図で安定感を出す
- 公的機関・英語 ナショナル・ギャラリー(ロンドン) Copyist code of practice
- 公的機関・英語 ナショナル・ギャラリー(ロンドン) Artists inspiring artists





