矢穴
石垣の積み方と隅
時代: 安土桃山
石を割るために掘った、四角い穴の列です。割れると断面に穴が半分だけ残るため、石の縁に等間隔の窪みが並んでいれば、人が割った石だと分かります。
何のためのものか
石を割る向きを決めるために、列状に掘った穴です。奈良文化財研究所の矢穴技法の研究では、穴へ鉄製の矢を差し込み、先端で打ち抜くのではなく亀裂を押し広げて割る仕組みとして説明されています。割れた石の縁には穴が半分だけ残るので、どちらの向きに力をかけたかが石の側に記録されます。静岡県熱海市、香川県小豆島町、兵庫県西宮市に残る石丁場の跡では、割りかけの石にも列が残ります。
見分けの決め手
穴の断面の形と、並びの間隔を合わせて見ます。矢穴は四角い口から奥へすぼまる形で、割れ目に沿って等間隔に並びます。面に残る全形の穴と、縁で半分になった穴が同じ石にあることも珍しくありません。穴の大きさから年代を言う見方は幅が大きく、報告ごとに区分が違うため一つの寸法で時期を決めません。石丁場跡の報告は全国遺跡報告総覧で読めます。
いつ頃のものか
城の石垣に矢穴の列が目立つのは16世紀の後半から江戸時代の初めで、天下普請で大量の石が要った時期に重なります。静岡県熱海市に広がる江戸城の石丁場の跡や、香川県小豆島町の大坂城の石切丁場の跡は、慶長から寛永期の普請に結びつけて調査されてきました。矢穴だけで年代は決まりません。石の産地と普請の記録を突き合わせるのが、発掘報告のとっている手順です。
取り違えやすい相手
近代の削岩機であけた穴と、自然の割れ目が相手です。断面が四角いか丸いかと、並びがそろっているかで分かれます。削岩機の穴は円い断面がまっすぐ奥へ続き、深さもそろいます。自然の割れ目には穴そのものがなく、線の間隔も不規則です。石垣の刻印とも混ざりますが、刻印は割るための窪みではないので、面の中ほどに一つだけ置かれる点で分かれます。
どこに立つと見えるか
壁の下のほうにある大きな石の、縁の線を見ます。矢穴は割った縁に残るため、石と石が接する目地の際に現れます。兵庫県西宮市の六甲山地には運ばれずに残された石が点在し、香川県小豆島町の石丁場の跡でも割りかけの石が屋外で見られます。山中の石丁場は足場が悪く、道が整えられた区画から見ます。雨あがりは窪みに水がたまり、並びを見つけやすくなります。