民衆を導く自由の女神
ロマン主義・写実
ウジェーヌ・ドラクロワ/1830年
どんな絵か
約2.6×3.25メートルのカンヴァス。硝煙の立ちこめるバリケードの上を、三色旗を掲げた女性が踏み越えてくる。足元には倒れた人が積み重なり、右奥にはノートルダム大聖堂の塔が霞んで見える。ルーヴル美術館蔵。
どこを見るか
旗を持つ腕、銃を持つ腕、そして振り返る顔が三角構図の頂点をつくり、その真下に折り重なった体が土台として敷かれる。旗の赤・白・青は画面でいちばん強い色で、同じ三色が手前の負傷した男の服にも繰り返され、目が上下に往復する。周囲は硝煙で彩度を落としてあるので、この三色だけが前へ出る。
使われている技法
油彩。輪郭を締めずに、絵筆の跡を残したまま形を置いていく。硝煙や空は薄く伸ばし、旗と肌は厚めに盛る。2024年の修復では、女性の衣が黄色一色ではなく灰色に金が混ざること、雲がもっと白いことが分かり、画面の明るさが大きく戻った。
描かれた背景
1830年の七月革命を、事件と同じ年のうちに描いた。翌年のサロンに出て国が買い上げたが、体制側には扇動的に映り長く人目から遠ざけられた時期がある。中央の女性は実在の人物ではなく自由の擬人像=寓意と読むのが一般的だが、周りの男たちのモデルについては説が分かれる。
解説動画: 七月革命と、旗に収束する構図の読み解き/ミッドナイトムーン
この絵をどう読み解いているか: 縦260cm・横325cmのロマン主義の代表作として紹介し、細部のモチーフ一つ一つに込められた意味を読み取っていく。題材はフランス革命ではなく、その40年後の1830年に起きた七月革命だと最初に押さえる。ロマン主義は形式に縛られず個人の感情を自由に表現した運動だと補足している。
描かれた背景: 国王が勅令で市民の新聞を封じ、選挙権を大金持ちに限ったことで怒りが爆発し、パリにバリケードが築かれて市街戦になった三日間を描いていると説明する。ドラクロワ自身は戦いに参加していない。王室が画家の後ろ盾だったからだが、大聖堂に三色旗が翻るのを見て制作を決意したと、友人の証言を引く。
中央の女性は誰か: 実在の人物ではなく、自由を象徴するマリアンヌという擬人像だと説明する。かぶっているフリジア帽は古代に解放奴隷が用いた帽子で、革命以来の共和国の象徴だという。胸をあらわにしているのは、見たままではなく感じたものを描くロマン主義だからで、祖国への愛を母性として表したと読んでいる。
構図と周りの人々: 画面全体がピラミッド型で、足元に積まれた死体が土台、頂点が三色旗になっていると指摘する。倒れた男の腕、少年が抱える袋、シルクハットの男の銃の向き、跪く男の視線に線を引くと、すべてが旗に収束する。周りの人々は階級も年齢もばらばらで、右の少年は未来の世代を表すと読む。