生物ろ過の担い手
立ち上げと安定
硝化を担うのは、ろ材の膜に住みつく微生物です。教科書に載る2属だけでなく、両方の段を1種で行うコマモックス・ニトロスピラが優占するという報告があります。
何が何に変わるか
アンモニアから亜硝酸へと亜硝酸から硝酸への二段を、別々の微生物が受け持つ——長くそう説明されてきました。いまはアンモニア酸化細菌(AOB)・アンモニア酸化古細菌(AOA)・亜硝酸酸化菌に加えて、一段目と二段目を1種でこなすコマモックス・ニトロスピラも同じ場にいます。McKnight と Neufeld 2024 は、家庭水槽の淡水ろ材38検体すべてでコマモックスを検出し、30検体で最も多いと報告しました。
どこで起きているか
住処は水の中ではなく、固いものの表面にできる膜(バイオフィルム)です。生物ろ材の内側、メディアベッドの粒、槽の壁、配管の内面、根の表面のどこにでも付くので、表面積の合計が処理できる量の上限を決めます。McKnight と Neufeld 2024 が調べたのも家庭水槽のスポンジや不織布のろ材で、AOBの遺伝子はコマモックスより2桁少ない値でした。
速さを決めるもの
増えるのが遅く、倍になるのに10〜15時間かかります(FAO 589)。分解側の従属栄養菌が速いもので20分で倍になるのとは桁が違い、崩れたあとの戻りも遅くなります。働きの速さを決めるのは水温17〜34℃・pH6〜8.5・溶存酸素(DO)4〜8 mg/Lと、日光が当たらないこと。コマモックスはアンモニアへの親和性が高い(Km(app) 63±10 nM NH₃)と報告されており、薄い水でも働ける側の性質です。
止まるとどうなるか
膜が薄いまま、あるいは減ってしまうと、総アンモニア態窒素(TAN)が下がらず、遅れて亜硝酸態窒素(NO₂-N)が上がります。二段目だけが追いつかないときは亜硝酸だけが残り、硝酸態窒素(NO₃-N)の増え方も鈍ります。数字の順番がそのまま担い手の状態を映すので、アンモニアが下がらないときは、ろ材の表面積と水温・酸素・pHから先に見ていきます。
解説動画: Genome-Enabled Insights into “Ca. Nitrospira nitrosa”/ASM - Microbes Make Our World
二段という説明: 動画は、下水から窒素を除く研究の話として始まります。硝化は長く二段の反応と考えられてきた——まずアンモニアから亜硝酸へをアンモニア酸化細菌と古細菌が担い、その次を亜硝酸酸化菌(NOB)が担うという説明です。研究室の狙いは、窒素・炭素・リンを除くのに要る酸素を減らすことだと述べます。
2015年の発見: ところが2015年、オランダとオーストリアの二つの研究グループが、アンモニアを一気に硝酸まで酸化できる微生物を別々に見つけたと紹介します。コマモックスと呼ばれるこの微生物は、見つかってみればさまざまな環境にすでにいた。自分たちも、当時動かしていた反応槽にいたことに気づいていなかったと話します。
保存したDNAから: 反応槽は条件を変えながら段階を追って運転していて、2014〜2015年当時のDNA試料を保存してありました。近年それを配列決定して解析すると、運転のある時点でコマモックスがいたと後から分かったといいます。当時はその存在に気づけておらず、残した試料と遺伝子から読み直すことで見えたという順序です。
ゲノムで見た違い: 分かれ目は遺伝子でした。アンモニアを亜硝酸へ酸化する遺伝子群を持つのはコマモックス側だけで、二段目の遺伝子のほうは両方が持っている。コマモックスのゲノムはどれも尿素を分解する仕組みを備え、これは一部のニトロスピラにしかない。逆にシアン酸をアンモニアに変える酵素は、亜硝酸酸化菌の側だけだと整理します。
薄い水と低い酸素: コマモックスのゲノムはすべて硫黄還元型のヒドロゲナーゼ遺伝子を持ち、酸素の無い条件で有利になりうると述べます。見つかるのは溶存酸素(DO)の少ない場所が中心ですが、低い酸素で生きられるのは彼らだけではないとも言う。どの菌を優勢にしたいかで条件を選ぶ、という結びです。