建物を見る楽しみの全体像

建物を見る楽しみは、形・部材・配置・時代を1つの建物で重ねて読むことです。

1つの建物を見るとき、最初に目が向くのは屋根の輪郭です。隅棟が四方から頂点の一点へ集まる宝形造のように、屋根の形だけでも建物の見当がつきます。けれども屋根の形は一枚の面で終わらず、正面の階段の上に別の小さな屋根を架けた向拝のような部材が加わり、寺院建築で階段を雨から守る庇として働いてきました(コロンビア大学版JAANUS)。

屋根を覆う材料も、見た目と年代の両方に関わります。兵庫県の浄土寺浄土堂は宝形造・本瓦葺で指定され、桁行・梁間ともに三間という小ぶりな規模にもかかわらず、重源が建久3年(1192)に建てた大仏様の代表的な遺構とされています(文化遺産オンライン)。大棟の両端に載る鴟尾のような飾りは、建物が建てられた瞬間をそのまま示すとは限りません。奈良時代に創建された唐招提寺金堂では、西側の鴟尾は奈良時代、東側は鎌倉時代のもので、何度かの修理を重ねるうちに据え方自体が変わった可能性が指摘されています(奈良文化財研究所)。屋根の上の一点だけを見て年代を決めると、建物が経てきた修理の歴史を読み落とします。

軒の下に回ると、屋根の重さを柱へ伝える部材が見えてきます。浄土寺浄土堂では、丸い断面の虹梁と大瓶束を組んで梁を受け、柱の上には段を重ねた組物ではなく挿肘木を差し込み、隅だけ扇垂木で軒を扇状に広げています。天井を張らずに屋根裏をそのまま見せる造りも合わせ、この部材一式が大仏様というひとまとまりの様式として働いています(文化遺産オンライン)。屋根の形が同じ宝形造でも、軒下の部材の組み方が変われば、建てられた時期の見当も変わります。

軒下の彫りの部材は、同じ名前のまま形が変わっていく例になります。桁と肘木の間の隙間を埋める支輪は、7〜8世紀ごろはゆるい曲線が多く、平安時代に入ると勾配が急になり、13世紀以降の禅宗様では菱形の部材や彫刻を施した精巧な形へ変わったとされています(コロンビア大学版JAANUS)。部材の名前を一つ覚えるだけで終わらせず、形の違いまで見ることが、時代を見分ける次の手がかりになります。

屋根の形・覆う材料・棟の上の飾り・軒下の部材・彫りの細部は、どれも1つの建物の別々の面にすぎません。1か所だけを見て様式や年代を決めず、形・部材・配置・時代の順に重ねて読むことで、1つの建物の中でこれらがどうつながっているかが見えてきます。次の節からは、屋根・軒下・正面・まわり・案内板の順に、この重ね方を実際の見る順番として確かめていきます。

この節に出てくる図鑑の項目

出典