つるし雲

特別な雲

高さ: 中層(2〜7km)

山の風下側に、離れて浮かぶレンズ状の雲です。山を越えた気流が打つ波の、上昇している部分だけが雲になるため、風下の決まった位置に横たわります。

どう見えるか

山から離れた空中に、輪郭のはっきりした塊が横たわって見えます。中央がふくらみ、両端へいくほど薄くなる断面で、下から見上げると皿を伏せた形になります。筑波大学の日下博幸らが富士山で3年間続けたライブカメラ観測では、楕円型が最も多い型でした(Weather誌、2025年)。円筒状やつばさ状と呼ばれる形もあり、上下に二枚三枚と重なることもあります。縁が虹色に染まるときは、彩雲と同じしくみが働いています。

どこにできるか(高さ・どの雲に付くか)

できる場所は山頂ではなく、風下側に離れた空です。富士山で見えるものは山頂の3776m付近か、それより高い層に浮かびます。気象庁『気象観測の手引き』の区分では中層にあたり、雲の種としてはレンズ雲なので、高積雲や層積雲の高さに現れます。山頂に笠雲、その風下にこの雲という並び方をすることがあり、同じ日に両方が空に出ることもあります。

なぜその形になるか

風下に残る山岳波の、上昇している部分だけが雲になるためです。安定した空気が山を越えると、越えたあとも上下に振れる流れが続きます。持ち上げられたところでは温度が露点まで下がって水滴ができ、下りたところでは温まって蒸発します。波の位置が動かないので、空気が通り抜けても形だけがその場に残ります。日下博幸らは、この雲の主な成因を山岳波としています(Weather誌、2025年)。同じ波が横に連なると波状雲になります。

似た雲との分け方

見分けるときは、雲が山に触れているかどうかをまず見ます。山にかぶさっていれば笠雲、風下の空に浮いていればこちらで、同じ日に上下の段でそろって出ることもあります。高積雲は風に乗って空を横切っていきますが、この雲は風上の端で生まれ、風下の端で消え続けるため、位置が変わりません。輪郭がぼやけて流れ出したものは、波から外れて崩れかけた姿です。

この雲が出ている空で起きていること

雲のある高さでは、山を越える強い風と、上下動をはね返す安定した層がそろっています。その層に水蒸気が足りているときだけ姿が見え、乾いていれば波が立っていても空は青いままです。航空の世界では山岳波は風下側の乱れた気流の目印として扱われ、山越えの経路で揺れの手がかりにされてきました。地上が無風でも上空だけ強く吹いていることがあり、レンズ雲の形はその見えない風を映しています。